スモールスタートで小規模なシステムを構築したい、そんな時にはクラウドを使うのがおすすめです。
今回はOracle Cloud Infrastructure (以下OCI)で小規模なECサイトを構築する場合を例に、運用面やコスト面でのメリットをランニングコストの試算もしながら確かめてみます。
スモールスタートとは
スモールスタートという言葉自体はさまざまな分野で広く使われていますが、ここではWebサービスにおけるスモールスタートについて紹介します。
一般的なサービス開発運営では、長期的な計画を立てて予算を十分に確保し、提供する機能を全て用意してからサービスを開始することが一般的です。
一方、スモールスタートではまずは小規模なリソースだけを投入して一部の限定的なサービスや機能をユーザーへ提供し、サービスへの反響やユーザー数の推移を見て、機能の拡充や規模の拡大をしていくような進め方をします。
スモールスタートの主なメリットとしては下記のようなものが挙げられます。
- 投入するリソースが少ないので失敗時のリスクも小さくできる
- ニーズが高い部分を伸ばした開発を行うことができる
- 顧客の声を素早く反映した運用を行うことができる
スモールスタートはその性質上、スピード感が求められるような比較的新しい分野のサービスで行われることが多い手法です。
クラウドはスモールスタートとの相性が良い
前章でもあったようにスモールスタートでは高いスピード感、アジリティが重要になります。
この高いアジリティを実現するにあたって、クラウドにシステムを構築することは有効な手段と言えるでしょう。
クラウドのメリット
オンプレミスでシステム運用する場合とクラウド環境でシステム運用をする場合、さまざまな違いがありますが、クラウドのメリットとして下記のようなものが挙げられます。
柔軟性
- クラウドサービスと契約さえすれば物理的な準備無しにすぐにサーバを立てて利用することができる
- 各種マシンリソースが不足した場合や余った場合、柔軟にリソースの増減が可能
コスト
- 物理的なサーバを用意して維持する場合と比べてはるかに低コスト
- 利用者の増減に合わせて動的に利用リソースの変更ができるため、無駄なコストが発生しない
運用
- 一部インフラ部分の運用管理をクラウド事業者に任せることができる
信頼性と可用性
- 特に意識せず使用した場合でもある程度の冗長性が確保されている
- 必要に応じてさらに可用性の高い設計にすることも容易
なぜクラウドが良い?
上記で挙げたメリットを見ると分かる通り、クラウドはスモールスタートと相性が良いと言えます。
例えばサービスの一部として新たな機能を追加するため、サーバを1台追加したいとします。
そんな時、クラウドであればすぐにサーバを立てて稼働させることができ、逆に不要になったら削除することも容易にできます。
あらかじめシステム数や利用者数が増えることを見越して余裕を持ったスペックおよび台数のサーバを用意しておく、といったことも不要になります。
コストもクラウドは従量課金制の料金体系がほとんどなので、スモールスタート初期の小さな規模のサービスであれば、規模に見合った費用しか発生しません。
またせっかく始めた事業ですが、さまざまな事情によって継続ができなくなるようなこともあるかもしれません。
そんな場合でも、クラウドであれば契約を終了すればそれ以上のコストがかかることはありません。
※年間契約をしている場合はタイミングによっては余剰クレジットが発生する可能性があります。
コストに優れたOCI
スモールスタートの初期段階は本格的に事業として拡大していくのかどうか、まだ先が見えない状態なので、やはり必要最低限のコストで抑えたいと考えるでしょう。
クラウドプロバイダーはいくつもありますが、その中でもOCIはAWS(Amazon Web Services)やAzure等の他社クラウドと比べて、比較的低コストで利用できます。
主要なサービスであるIaaSだけを見てもコスト的に大きなアドバンテージがあり、データベースにOracle DBを使用する場合には特に低コストで簡単にDBを構築・運用できます。
もちろんOracle DB以外を選択する場合でもPaaSとしてPostgreSQL・MySQLが提供されており、こちらも安価に利用できます。
構成例とコスト試算
ここまでスモールスタートでのクラウド利用をおすすめしてきましたが、コストが低いと言っても具体的にどの程度のコストがかかるのか分からないと検討することも難しいでしょう。
そこで、実際にOCI上にシステムを構築した場合にどの程度のランニングコストがかかるのかを計算してみました。
ECサイトの構成
今回はECサイトを例に構成を考えてコストを試算してみます。
※ここで例とするECサイトとはクラウドECやASPではなくパッケージやOSSを使ってクラウド基盤上に構築するシステムです。構成は最低限で考えています。
また、あくまでクラウドインフラについてのみであり、ECプラットフォーム等のソフトウェアについては含まれていません。
役割 | サービス | 補足説明 |
アプリサーバ | OCI Compute | Oracle Linuxサーバの利用を想定 |
ストレージ | OCI Object Storage | アプリデータや各種バックアップの保存 |
OCI Block Volume | Computeのボリュームとして使用 | |
ネットワーク | Virtual Cloud Networks(VCN) | |
ロードバランサー | Flexible Load Balancer | アプリサーバへのアクセス分散とSSLターミネーション |
セキュリティ WAF | OCI Web Application Firewall(WAF) | |
データベース | MySQL HeatWave Database Service | MySQLのPaaS |
認証基盤 | OCI Identity Domains | SSOやMFAが利用可能 |
DNS | OCI DNS Service | |
証明書管理 | Certificates Service(証明書サービス) | ロードバランサー で利用する証明書の管理 |
メール | Email Delivery | メールの配信 |
ログ | OCI Logging | アプリ・OCIサービス・監査ログ |
監視・通知 | OCI Monitoring | リソースやログの監視 |
OCI Notifications | メールや各種プッシュ通知 | |
Service Connector Hub | LoggingとMonitoringの接続 |
ランニングコスト
上記の構成で各種スペックや使用量を仮で設定して、月額コストと年間コストを試算してみます。
※2024/7時点の価格を基準に試算しています。
サービス | スペック | 月額(円) | 補足 |
OCI Compute | Oracle Linux VM.Standard.E4.Flex 1OCPU、メモリ8GB |
3,854 | |
OCI Object Storage | 300GB | 1,035 (※) | ※月間5万リクエスト未満での料金 |
OCI Block Volume | 100GB | 595 | |
Virtual Cloud Networks(VCN) | - | 0 (※) | ※月間アウトバウンド10TB未満まで無償 |
Flexible Load Balancer | - | 416 (※) | ※1台目かつ平均帯域50Mbpsとして計算 |
OCI Web Application Firewall(WAF) | - | 0 (※) | ※1台目かつ月間1,000万リクエスト未満まで無償 |
HeatWave MySQL Database Service | 2ECPU、メモリ16GB ストレージ50GB |
7,904 | HeatWave構成無し |
OCI Identity Domains | Freeプラン | 0 (※) | ※グループ、ユーザー、外部SSO数に制限あり |
OCI DNS Service | - | 0 (※) | ※月間100万クエリ、100万問い合わせ未満まで無償 |
Certificates Service(証明書サービス) | - | 0 | 無償 |
Email Delivery | - | 0 (※) | ※3,000通まで無償、それ以降は11.9円/1,000通 |
OCI Logging | - | 0 (※) | ※月間10GB未満 |
OCI Monitoring | - | 0 (※) | ※月間取り込み5億データポイント、取得10億データポイント未満 |
OCI Notifications | - | 0 (※) | ※月間HTTPS通知100万件、メール通知1,000件、SMS通知100件未満まで無償 |
Service Connector Hub | - | 0 (※) | 無償 |
合計 | 13,804 |
以上を合計すると月額13,804円、年間で165,648円の計算になりました。
最小限の構成とはいえ、スモールスタートの事業での利用はもちろん、個人でちょっとしたサービスを始めてみたいといった場合でも手が届く金額と言えるのではないでしょうか。
個人で試しに利用してみる程度であれば、DBをPaaSからIaaS上での自力構築に変えることでさらなる節約を試みてもよいかもしれません。
※この試算はあくまで目安です。各サービスのオプションや利用用途によって料金は異なる場合があるので、実際に利用する際はご自身の利用用途に合わせて試算を行ってください。
おわりに
大規模なシステムだけではなく、今回ご紹介したスモールスタートのような小規模構成からの利用でも、クラウドの利用は大きなメリットがあります。
まずはあまりコストをかけずに検証目的で利用するような形でも、クラウドを活用してみてはいかがでしょうか。
システムエグゼはOracle Cloudでの豊富な実績を持ち、関連サービスを提供しています。
Oracle Cloudのご利用をご検討される際には、ぜひ当社までお気軽にご相談ください。
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- クラウド移行