クラウドコンピューティングの普及に伴い、マルチクラウド戦略を推進する企業が増加傾向にあります。そこで、本記事ではマルチクラウドの概要を解説するとともに、具体的なメリット・デメリットやハイブリッドクラウドとの違いなどをご紹介します。システム環境の刷新やクラウド移行を検討している企業は、ぜひ参考にしてください。
マルチクラウドとは
マルチクラウドとは、クラウドサービスを複数組み合わせて併用する運用形態です。たとえば、基幹システムは実績豊富な「Amazon Web Services(以下、AWS」で運用し、フロントエンドではMicrosoft製品との連携性を考慮して「Microsoft Azure(以下、Azure)」を考慮して採用するといったケースがマルチクラウドに該当します。
また、データ分析基盤にはBigQueryを搭載する「Google Cloud」を採用し、データベースにはRDBMSのリーディングカンパニーであるオラクルの「Oracle Cloud Infrastructure(以下、OCI)」を利用するといったケースもあるでしょう。このように、2つ以上のクラウドサービスを組み合わせ、いわゆる良いとこ取りをした運用形態がマルチクラウドなのです。
近年、グローバルのクラウド市場は拡大の一途を辿っており、米国の調査会社Canalysの発表(※1)によると、2021年第1四半期における企業のクラウドインフラサービス支出は前年比+35%の418億ドルにまで成長しています。クラウド市場の拡大に伴ってマルチクラウド戦略を推進する企業も増加傾向にあり、HashiCorp社が2021年に発表したデータ(※2)では、約76%の企業がクラウドサービスを併用していると回答しています。
(※1)(参照元:Global cloud services market reaches US$42 billion in Q1 2021(p.1)|Canaly)
(※2)(参照元:State of Cloud Strategy Survey|HashiCorp)
ハイブリッドクラウドとの違い
クラウドコンピューティングは運用形態やサービス形態、または実装モデルによってさまざまな呼び名があります。ハイブリッドクラウドはそのひとつであり、マルチクラウドとの違いに疑問を抱く方が多いかもしれません。先述したように、マルチクラウドは2つ以上のクラウドサービスを併用する運用形態ですが、ハイブリッドクラウドは異なる環境のクラウドサービスやオンプレミスを混合させる実装モデルです。
ハイブリッドクラウドの一例として、ERPシステムをクラウドマイグレーションするケースを考えてみましょう。企業の基幹業務を統合管理するERPシステムには決して漏洩してはならない機密情報が保管されているため、厳格かつ堅牢なセキュリティが求められます。この場合、パブリッククラウドは導入費用・運用コストを抑えられるものの、複数のユーザーがリソースを共有するという性質上、セキュリティの脆弱性が懸念されます。
一方、自社専用のプライベートクラウドは安全性が向上するものの、パブリッククラウドと比較してイニシャルコストとランニングコストの増大は避けられません。そこで、機密度の高いデータはプライベートクラウドに保管し、共有データのみをパブリッククラウドで管理できればコストを抑えつつ、一定のセキュリティ要件を満たせます。このような運用形態を実現するための実装モデルがハイブリッドクラウドです。
マルチクラウドのメリット・デメリット
マルチクラウドはいわゆる良いとこ取りの運用形態であり、組織にさまざまなメリットをもたらします。しかし、どのような物事にも二面性があり、メリットの裏には相応のデメリットが存在します。ここからは、マルチクラウドのメリットとデメリットについて見ていきましょう。
マルチクラウドのメリット
マルチクラウドのメリットとして挙げられるのが、多様なクラウド環境を構築できる点です。たとえば、基幹システムでオラクルの「Oracle Database」を採用してきた企業であれば、すでにAzure上で別システムを動かしていたとしても、基幹システムはオラクルのクラウド環境に移行することを安心と考えることもあるでしょう。
この場合、すでにAzureで運用済みのシステムはそのままAzure上に残して、データベースはオラクルのクラウド環境に構築することにより、既存の業務プロセスやデータガバナンスなどの変更を最小化することもできます。これはあくまでも一例ですが、このようなマルチクラウド環境を構築することで、自社の業務用件やシステム用件に柔軟に対応できる点が大きなメリットです。
また、マルチクラウドを構築するもうひとつのメリットとして、ベンダーロックインの回避が挙げられます。クラウドコンピューティングはサービス事業者への依存度が高く、ベンダーのデータセンターにシステム障害やサーバーダウンが発生した場合、自社の事業活動にまで多大な影響が生じます。複数のクラウドサービスを併用することでこうしたリスクを分散し、単一のクラウドサービスに依存しないアジリティとスケーラビリティに優れるシステム環境の構築が可能です。
マルチクラウドのデメリット
マルチクラウド環境は複数のクラウドサービスを併用する性質上、運用コストの増大は免れません。もちろん、導入するクラウドサービスや利用する業務領域、運用形態などによってコストは大きく異なるでしょう。しかし、基本的にはクラウドサービスごとにサブスクリプション費用やライセンス費用が発生するため、利用するサービス数に比例して運用コストが増大します。
また、マルチクラウドの大きなデメリットといえるのが、IDやパスワードといった運用管理の複雑化です。加えて、クラウドサービスによってセキュリティポリシーが異なるため、アカウント管理の複雑化と相まって情報漏洩インシデントのリスクが高まります。マルチクラウド環境はこのようなデメリットがあるため、いかにして運用コストと運用負荷を最小化するのかが重要な課題です。
マルチクラウドへ全面移行したシステムエグゼの事例
システムエグゼは、システム開発やソフトウェア開発の領域で事業を展開するSIerであり、DXの実現に向けてマルチクラウド戦略を採用している企業です。マルチクラウドの組み合わせは多岐にわたりますが、同社が基幹システムのITインフラとして選定したのはAzureとOCIでした。
AzureはMicrosoftが提供するIaaS・PaaSであり、ユーザー管理を一元化できる「Microsoft AD」や、Microsoft製品との連携性を考えてフロントエンドに採用されています。バックエンドには、RDBMSの分野でトップシェアを誇るオラクルが提供するOCIが採用されました。Microsoft製品やオンプレミス環境との親和性が高いAzureと、セキュリティやコストパフォーマンスに優れるOCIの相互接続により、スケーラブルなマルチクラウド環境の構築に成功しています。
導入者が感じたマルチクラウドのメリット・デメリット
AzureとOCIによるマルチクラウド環境を構築したシステムエグゼは、マルチクラウドの大きなメリットとして「耐障害性向上」と「ベストかつ最適化」を挙げています。つまり、BCP対策や可用性の確保、そして各サービスの良いとこ取りによるシステム環境の最適化が最大のメリットといえるでしょう。反対にデメリットとしては「ネットワーク設計や運用管理の複雑化」と語っています。
マルチクラウドはアジリティやスケーラビリティを確保し、変化が加速する現代市場に柔軟に対応可能なシステム環境を構築できます。しかし、運用コストの増大や運用管理の複雑化といったデメリットも存在します。自社の業務要件やシステム要件に最適化されたシステム環境を構築するためには、マルチクラウドの実装から運用に至るプロセスを経験しているベンダーをパートナーに選定する必要があるでしょう。
まとめ
今やクラウドファーストの概念は一般化しつつあり、時代の潮流はクラウドネイティブへと加速しています。マルチクラウドのメリットを最大限に享受するためには、クラウド環境の構築を総合的に支援するベンダーの選定が重要です。その一方、マルチクラウドには、運用の複雑化というデメリットもあります。実際にマルチクラウド環境の構築を目指す企業は、システムエグゼのような実装・運用経験の豊富なSIerへの相談が一番の近道になるのではないでしょうか?
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