ペーパーレス化に取り組むにあたっては、メリットやデメリットはもちろん、導入に必要な手順や、社内で生じやすい課題まで把握しておくことが大切です。本記事では、ペーパーレス化の概要や、メリット・デメリット、スムーズに導入を進めるための手順なども紹介します。ぜひ、社内でペーパーレス化を検討する際の参考にしてください。
ペーパーレス化とは|基礎知識・現状・身近な例
ペーパーレス化とは、業務で扱う文書を電子化して活用、保存することです。文書を電子化することで、保管スペースや管理コストの削減、文書検索や共有の円滑化・迅速化を実現できます。
近年では、規模を問わず多くの企業がペーパーレス化への取り組みを進めています。ペーパーロジック株式会社が実施した「ペーパーレス化に伴う2024年度予算」に関する調査によると、2023年に社内のペーパーレス化を推進した企業は全体の55.1%を占めています。また、2024年にペーパーレス化のための予算配分を検討していると回答した企業は59.3%にも及びました。
参照元:「ペーパーレス化に伴う2024年度予算」に関する調査
【社内の業務で使用される紙書類の例】
- 取引先との業務 契約書、見積書、納品書、社内伝票、請求書など
- 社員との業務 給与明細書、雇用契約書、人事書類、年末調整、勤怠・通勤経費書類
- 社内業務 申請・承認業務書類、総務・人事・法務書類、経理・財務書類、会議資料、事業計画書、役員会資料、営業資料、技術関連資料
ペーパーレス化を推進すべき理由については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
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電子帳簿保存法の改正で広がるペーパーレス化
2022年1月の改正電子帳簿保存法により、電子取引のデータ保存が義務化され、企業にとってペーパーレス化は「選択肢」から「必須事項」へと変化しました。法制度の改正によって、経理や契約、申請業務など、ペーパーレス化の対象範囲が大きく広がっています。
ペーパーレス化を阻む申請・承認業務
多くの企業がペーパーレス化を進める中で、障壁となっているのが「申請・承認業務」です。稟議書、経費精算、勤怠届出などは、紙で運用されているケースがまだ多く、印刷・押印・上司へ提出というアナログな手続きが残されています。
このような業務は、担当者の不在や紙の紛失などによって処理の遅延やミスが起きやすく、業務効率化の足かせになりがちです。また、テレワーク環境では物理的な押印が困難となり、申請フローが止まってしまうこともあるでしょう。
本来、申請・承認業務こそ電子化の恩恵が大きい領域です。電子帳簿保存法への対応をきっかけに、ワークフローシステムを導入して業務全体のデジタル化を加速させる企業が増えています。
ペーパーレス化を推進する電子帳簿保存法改正とは
2022年の改正電子帳簿保存法では、電子取引で受け取った請求書や領収書などを紙で印刷して保存する運用が廃止され、電子データのまま保存することが義務化されました(※一部経過措置あり)。この改正により、企業の書類管理のあり方が大きく変化しました。
また、スキャナ保存に関する要件も緩和され、受領者の署名や第三者チェックが不要になるなど、実務的なハードルが大幅に低下しています。さらに、税務署への事前承認制度も撤廃され、導入への手間も軽減されました。
このように、法改正により企業はペーパーレス化を進めやすくなっており、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する絶好の機会となっています。
ペーパーレス化できる申請・承認業務とは
ペーパーレス化が可能な申請・承認業務は多岐にわたりますが、代表的なものには以下のような業務があります。
- 経費精算書・旅費申請書
- 勤怠届出・休暇申請書
- 購買申請・発注依頼書
- 稟議書・社内決裁文書
これらの書類は、ワークフローシステムを導入することで、申請から承認・保管までを全て電子化できます。クラウド型のツールを活用すれば、テレワーク環境でも場所を選ばず申請・承認が可能です。
また、電子帳簿保存法に準拠した保存機能を備えたワークフローシステムを使えば、法令対応と業務効率化を同時に実現できます。業務フローの中核を担うこれらの書類の電子化は、企業全体のペーパーレス化推進において非常に効果的です。
申請・承認業務については以下の記事でさらに詳しく解説しています。
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ペーパーレス化のメリット
ペーパーレス化を導入することで、業務の効率化やコスト削減、セキュリティの強化など、さまざまな効果が期待できます。ここでは、代表的なメリットを紹介します。
業務効率の改善と向上
ペーパーレス化は業務のスピードと正確性を大幅に向上させます。紙ベースの資料では探し出すのに時間がかかる情報も、電子化すれば検索や共有が瞬時に可能です。例えば、クラウドストレージに保存された電子ファイルであれば、部署間の情報共有も容易であり、意思決定のスピードアップにも貢献します。
さらに、電子契約システムやワークフローシステムの導入により、申請・承認作業がオンライン上で完結でき、紙を印刷して回覧する必要がなくなります。これにより、ミスの防止やトレーサビリティの確保も実現し、全社的な業務効率の向上が可能です。
コストやスペースの削減
ペーパーレス化の代表的なメリットとして、コスト削減があります。印刷代や紙代、インク・トナー代といった直接的な経費だけでなく、プリンターのメンテナンス費用や紙文書の保管にかかるスペースの賃料なども削減可能です。
さらに、オフィス内のキャビネットや倉庫に保管されていた大量の紙資料を削減することで、そのスペースを会議室や作業スペースなど別の用途に転用できます。これにより、限られたオフィス空間をより効率的に活用することが可能になります。
セキュリティの強化
紙の資料は、紛失や盗難、閲覧制限の不備などセキュリティ面での課題が多く存在します。ペーパーレス化によって文書を電子データとして管理すれば、アクセス権限の設定や暗号化によって、機密情報の保護が容易になります。
また、操作履歴の記録や自動バックアップ機能により、不正アクセスや情報漏えいがあった場合でも早期に対応が可能です。デジタル化は、情報管理の安全性を飛躍的に高める手段といえるでしょう。
災害時の資料破損への対策
紙の書類は火災・水害といった災害に弱く、物理的に破損・消失するリスクがあります。一方で、電子化されたデータはクラウド上に保存されていれば、災害発生時でも別の場所からアクセスが可能で、業務の継続性(BCP)を確保しやすくなります。
例えば、地震や水害でオフィスが使用不能になっても、社員は自宅や別拠点から安全に業務を遂行でき、復旧作業のスピードも早まります。災害リスクが高まる中で、ペーパーレス化は有効なリスク管理手段といえるでしょう。
働き方改革への対応
テレワークやフレックスタイムなど、多様な働き方を支える上でもペーパーレス化は不可欠です。紙の資料は社内にいないと閲覧できませんが、電子化された書類であれば、ネットワーク環境があればどこからでもアクセス可能です。
とくに近年では、申請や承認、契約などをクラウドベースのシステムで処理できる環境が整ってきており、オフィスに出社せずとも業務を遂行する体制の構築が進んでいます。結果として、従業員の柔軟な働き方を支援し、企業の人材定着や生産性向上にもつながります。
ペーパーレス化については以下の記事でさらに詳しく解説しています。
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ペーパーレス化のデメリット
ペーパーレス化によって得られるメリットは多々あるものの、いくつかのデメリットもあるため、導入前に理解しておく必要があります。実際に導入を進めた企業では、「予想以上にコストがかかった」「一部の業務が非効率になった」といった声があがることもあるでしょう。ここでは、代表的なデメリットとその背景について解説します。
導入時のコストや手間がかかる
ペーパーレス化にあたっては、システム導入や設備投資、社内研修など、初期段階で相応のコストと労力がかかります。例えば、業務端末の整備、クラウドストレージの契約、電子契約やワークフロー管理システムの導入などが必要になるでしょう。
さらに、従業員が新しいシステムに慣れるまでには一定の時間がかかることに加え、社内マニュアルの整備や運用ルールの策定といった工程も必要です。
こうした準備が不足したままペーパーレス化を急ぎすぎると、かえって業務の混乱を招く恐れがあります。導入コストの見積もりと、運用定着までの体制づくりが成功の鍵です。
システム障害時に影響を受ける可能性がある
紙の書類に比べ、電子データはシステムやネットワークに依存するため、障害が発生した場合の影響は避けられません。クラウドのサーバートラブルや通信障害、ランサムウェアによる攻撃などが起きた場合、必要な書類にアクセスできなくなる事態も想定されます。
また、日常的にバックアップを取っていなければ、データの消失リスクも高まります。システム障害による業務の停止や損失を最小限に抑えるには、「3-2-1ルール」などにもとづく複数拠点へのバックアップ体制が必要不可欠です。
つまり、ペーパーレス化を成功させるには、便利さの裏にあるリスクを認識した上で、障害発生時の対応手順や復旧体制をあらかじめ整備しておくことが求められます。
※321ルールとは、データを3つ持ち、それを2種類の異なるメディアに保存し、さらにそのうちの1つを遠隔地に保管するバックアップ戦略のこと。
ペーパーレス化をスムーズに進める5つのステップ
ペーパーレス化を成功させるためには、思いつきや場当たり的な取り組みではなく、明確なステップを踏んで計画的に進めることが重要です。紙の業務を見直し、社内体制とシステムを整え導入することで、業務の混乱を防ぎ、定着と効果の最大化が期待できます。
ここでは、企業がペーパーレス化をスムーズに導入・運用するための5つの基本ステップを紹介します。
1.紙で行っている業務と資料を洗い出す
ペーパーレス化を始めるには、まず紙で行っている業務を正確に把握する必要があります。稟議書、申請書、報告書、会議資料など、どの部署でどのような書類が使われているのかをリスト化しましょう。あわせて、使用頻度や保管期間、閲覧・共有の方法なども確認すると、後のツール選定や業務フロー見直しに役立ちます。現場へのヒアリングを行い、業務実態を把握した上でペーパーレス化の対象を明確にすることが、第一歩となります。
2.どの業務がペーパーレス化に向いているか確認する
次に、洗い出した業務の中から、ペーパーレス化に適しているものを見極めます。例えば、社内で完結する申請書や報告書、承認フローのある稟議書などは、電子化の効果が高く、比較的導入しやすい分野です。一方で、契約書など法令により紙での保存が義務付けられているものや、顧客の要望で紙提出が求められるものは慎重な対応が求められます。業務ごとに目的や法的要件を踏まえた上で、実行可能な範囲から優先的に取り組みましょう。
3.適切なツール・システムを選定する
ペーパーレス化の対象業務が決まったら、それに合ったツールやシステムの選定に移ります。例えば、稟議書にはワークフローシステム、契約書には電子契約サービス、文書の保存にはクラウド型の文書管理システムが適しています。選定時には、使いやすさや費用、既存システムとの連携、セキュリティ対応なども重視するべきポイントです。また、導入前にトライアルを実施し、実際の運用に支障がないか確認することで、導入リスクを抑えられます。
4.社内に目的やメリットを共有する
ツールを導入しても、現場が納得しなければ定着は難しくなります。そのためには、ペーパーレス化の目的や背景、期待される効果について、全社員に丁寧に共有することが不可欠です。紙からデジタルへの切り替えに抵抗感を持つ社員も少なくないため、導入の必要性を論理的に伝えると同時に、実際にどれだけ効率化されるかを事例などで具体的に示すと理解が得られやすくなります。研修や操作マニュアルの整備も、円滑な導入に向けた大切な準備です。
5.効果の検証と継続的な改善を行う
導入して終わりではなく、ペーパーレス化によってどれほどの効果が得られたのかを定期的に検証することが重要です。例えば、紙の使用量の減少、業務時間の短縮、承認フローの高速化といった定量的な成果を把握すれば、関係者の納得感も高まります。また、現場からの意見を取り入れながら、運用ルールやシステム構成を柔軟に見直していくことも不可欠です。継続的な改善を行うことで、より効果的で持続可能なペーパーレス環境が構築されます。
ペーパーレス化の推進方法については、以下の記事でも詳しく解説しています。
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ペーパーレス化の成功事例
ペーパーレス化を導入する際には、他社の成功事例から学ぶことが効果的です。実際に業務効率の向上や承認業務の迅速化を実現した企業は、どのような課題を乗り越え、どのようなツールを選定し、どのような成果を得たのでしょうか。ここでは、株式会社アトレと小林住宅株式会社の具体的な成功事例を紹介します。
株式会社アトレの成功事例
株式会社アトレは、JR東日本グループとして首都圏の駅ビル運営を担う企業です。同社では、紙による稟議運用による非効率性と決裁の遅延を解消することを課題とし、全社的にペーパーレス化と働き方改革の推進を開始しました。
タブレット端末の導入に加え、ワークフローシステム「AppRemo(アップリモ)」を活用し、従来のExcel申請フォーマットをそのまま電子化できる柔軟な仕組みを導入しています。導入後は決裁のスピードが向上し、承認者が出張中でも迅速な処理が可能となりました。全社展開後も大きな混乱はなく、今では同社の中核業務を支えるシステムの1つに成長しています。利用促進のための丁寧な説明会や運用ルールの見直しなど、社内浸透に向けた工夫も評価されています。
小林住宅株式会社の成功事例
小林住宅株式会社は、関西で注文住宅を展開する老舗企業です。同社では、設計・営業・工事部門などが連携して進める「お客様カルテ」の承認業務が非効率で、申請の進捗が見えにくい点が課題となっていました。
そこで、Excelフォーマットをそのまま活用できるワークフロークラウド「AppRemo」を導入。現場中心の働き方でもスムーズに申請・承認ができる仕組みを整備しました。特に、チャット機能を活用したリアルタイムのやりとりや、社長によるスマホでの決裁が可能になったことで、業務のスピードと正確性が大幅に向上しました。今後は、データベース化による分析業務の効率化を図り、よりよい住まいづくりに活かす方針です。
導入の成功事例については、以下の記事でも詳しく解説しています。
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ペーパーレス化に効果的なツール
ペーパーレス化に効果的なツールとしておすすめなのが、「AppRemo(アップリモ)」です。
AppRemoはオンラインで申請・承認業務を行えるワークフローシステムであり、最大の特長はエクセルで作成した申請フォームをそのまま利用できる点です。従来使用していたエクセル形式の申請書を引き続き活用できるため、業務の属人化も回避できます。
さらに、申請・承認業務の円滑化に役立つさまざまな機能を実装していることも魅力です。申請画面内ではチャットを用いて不明点を解消できる他、承認漏れを防止するポータル連携機能もあります。
もちろん、スマートフォンにも対応しているため、外出先でも承認業務を問題なく行えます。しかも、直感的な操作性を備えているため、ツールの使い方に関する大掛かりな研修などを開催する必要もありません。
まとめ
ペーパーレス化に取り組むことで、業務効率化やコストの削減、セキュリティ強化などさまざまなメリットを得ることができます。一方で、ペーパーレス化には、導入時の初期コストや、システム障害時の業務への影響といった注意点も存在します。取り組みを行うなら、業務の種類や対象の部署を絞り、スモールスタートで始めるのがおすすめです。適切なステップに沿って、無理なくペーパーレス化を推進していきましょう。
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