ペーパーレス化に取り組むのなら、メリットやデメリットはもちろん、進め方の正しい手順も理解して置く必要があります。本記事では、ペーパーレス化の概要や、そのメリットとデメリット、実現に役立つおすすめのITツールなどについて解説します。
ペーパーレス化とは?
ペーパーレス化とは、業務で扱う文書を電子化して活用、保存することです。文書を電子化することで、保管スペースや管理コストの削減、文書検索や共有の円滑化・迅速化を実現できます。
近年では、規模を問わず多くの企業がペーパーレス化への取り組みを進めています。ペーパーロジック株式会社が実施した「ペーパーレス化に伴う2023年度予算」に関する調査によると、2022年に社内のペーパーレス化を推進した企業は全体の52.4%を占めています。また、2023年にペーパーレス化のための予算配分を検討していると回答した企業は62.5%にも及びました。
参照元:「ペーパーレス化に伴う2023年度予算」に関する調査
【社内の業務で使用される紙書類の例】
- 取引先との業務 契約書、見積書、納品書、社内伝票、請求書など
- 社員との業務 給与明細書、雇用契約書、人事書類、年末調整、勤怠・通勤経費書類
- 社内業務 申請・承認業務書類、総務・人事・法務書類、経理・財務書類、会議資料、事業計画書、役員会資料、営業資料、技術関連資料
ペーパーレス化には多くのメリットがあるものの、推進するにあたり課題を実感している企業も少なくありません。
なお、ペーパーレス化に関連する法律、電子帳簿保存法がペーパーレス化への取り組みにどう影響を与えるかは、以下の記事で詳しく解説しています。
ペーパーレス化を阻むさまざまな社内課題
ペーパーレス化を阻む社内課題として、ハンコ文化や紙業務の定着化が挙げられます。長く紙の文書を業務に使用してきた企業の場合、ペーパーレスへの移行が簡単に進まないケースも多々見られます。社員も紙の業務に慣れているため、強引にペーパーレス化を進めようとすると反発を招きかねません。
社員の理解を得られず、ペーパーレス化が進まないこともあります。ペーパーレス化すると業務オペレーションが大きく変わり、現場の社員がもっとも影響を受けるために、理解を得られないケースです。「新たなツールを使いこなせるか心配」「業務オペレーションに対応できるか不安」などと考える社員が多ければ、ペーパーレス化も進みません。
また、申請や承認業務は、通常紙ベースで行われることが多く、これがペーパーレス化の進行を妨げる要因となるケースもあります。紙を用いた申請・承認業務は書類紛失や決裁スピード低下などの事態を招き、テレワーク推進を阻害するため、一刻も早いペーパーレス化が求められます。
ペーパーレス化による5つのメリット
ペーパーレス化への取り組みを検討しているのなら、具体的にどのようなメリットを享受できるのか把握しておきましょう。代表的なメリットとしては、業務効率化やコスト削減、セキュリティ強化、BCP対策、働き方改革への対応などが挙げられます。
業務効率の改善と向上
ペーパーレス化は、業務効率の改善や向上に有効です。ペーパーレス化が進むと、文書を電子データとして管理できるため、管理が容易になるばかりか検索性も高まります。求めるデータの日付やキーワードなどから速やかに検索でき、業務効率化につながります。
紙文書の場合、求める文書を探すのに多くの時間を費やすことも珍しくありません。しかも、時間をかけて見つけた文書が破損していたり、インクが滲んで読めなくなっていたりすることも起こり得ます。ペーパーレス化すればこのようなリスクへの心配は不要です。
また、ペーパーレス環境下では、文書作成で発生する人的ミスへの対応も効率化できます。文書作成に失敗した場合、従来は内容を見直したうえでパソコンを用いて作成しなおし、再度プリントアウトする必要がありました。一方、紙を使わなくなると、パソコン上で手直しして共有すればよく、手間がかかりません。
コストやスペースの削減
ペーパーレス化によって、さまざまなコストの削減が可能です。業務に紙を使用しているケースでは、複合機のリース代やトナー代、郵送費、配送費などさまざまなコストが発生します。ペーパーレス化するとこれらの費用がかからなくなり、大幅なコストダウンを実現できます。
また、書類を管理するスペースを削減できるのもメリットです。紙の文書を管理するには物理的なスペースが必要であり、企業によっては広々とした部屋を丸々文書管理に使用しているケースもあります。ペーパーレス化すると、文書は電子データとして管理できるため、物理的なスペースは必要ありません。したがって、空いたスペースを有効活用できる、オフィスを縮小できるといったメリットを得られます。
企業運営に要する固定費のなかでも、オフィスの賃料は大きなウエイトを占めます。書類の管理スペースを排除し、オフィスの縮小に成功すると、組織にのしかかる財務負担の軽減につながるのもメリットです。
セキュリティの強化
書類の電子化はセキュリティ強化に有効です。たとえば、電子化したファイルをクラウドストレージに格納し、適切なアクセス権限の付与やパスワード設定を行った場合、堅牢なセキュリティ環境のもとでデータを管理できます。限られた社員のみがデータへアクセスできるため、情報漏えいのリスクも最小限に留められます。
一方、紙文書を用いた業務では、いつ情報漏えいが発生するかわかりません。オフィスの一室に、ファイリングした書類をそのまま管理しているようなケースではなおさらです。誰もが自由に出入りできる場所での管理は文書の紛失、不正な持ちだしを招くおそれが常にあります。
情報の扱いに厳しい目が向けられる現代において、情報を漏えいさせてしまったとなると、取引先や消費者の信頼を失います。これまで通りに事業を営めず、最悪の場合には事業の継続を諦めなくてはならなくなるかもしれません。このようなリスクを避けるためにも、セキュリティ強化につながるペーパーレス化を企業は推進すべきです。
災害時の資料破損への対策
ペーパーレス化は、災害時におけるBCP(事業継続計画)対策として有効です。日々の業務に使用する各種文書を災害によって消失してしまうと、事業の継続が困難になるケースも考えられます。ペーパーレス化を進め、文書をデータで管理していれば、水没や焼失するおそれがありません。
データのバックアップをとっておけば、端末が直接的にダメージを受けても安心です。バックアップをとることは、紙書類のままでは困難ですが、電子データであれば容易です。
また、クラウドストレージも有用です。専用のデータセンターでデータを管理しているケースが多いため、サービス提供会社が災害に見舞われてもデータ消失などのリスクは免れます。クラウドストレージ運営会社によって有事のときの対策はやや異なることもあるため、利用する際には事前に確認しておきましょう。
働き方改革への対応
労働人口が減少の一途をたどるなか、打開策として国は働き方改革を推進しています。これは労働力不足を解消し、全国民が活躍できる社会を構築するための取り組みです。具体的には、長時間労働の改善や働きやすい環境の整備、副業の許可、育児や介護と仕事の両立などが挙げられます。
働きやすい環境を整備するにあたっては、リモートワークやモバイルワーク、在宅勤務などの導入が効果的です。しかし、業務に紙を用いている状況ではこれらのワークスタイルへ移行できません。無理に移行したとしても、従来のように円滑なやり取りができず、かえって業務効率を低下させてしまいます。
たとえば、紙文書を業務に使用している場合、在宅勤務中にオフィスへ出社し、書類に印鑑を押してもらう、といった事態が発生しかねません。つまり、紙を業務に用いている状況のままでは、多様な働き方への対応が困難だというわけです。
ペーパーレス化を実現すると、各種文書をオンラインでやり取りできるようになり、多様な働き方へ対応できます。リモートワークも推進でき、働き方改革が実現します。
ペーパーレス化のデメリット
ペーパーレス化によって得られるメリットは多々あるものの、よい面ばかりではありません。ペーパーレス化にはいくつかのデメリットもあるため、導入前に理解しておく必要があります。
導入時のコストや手間がかかる
ペーパーレス化を実現するには、電子機器やITツールなどの導入が必須です。たとえば、ワークフローシステムやビジネスチャット、Web会議システム、クラウドストレージ、勤怠管理システム、電子契約システムなどが該当します。ペーパーレスと同時にリモートワークや在宅勤務も導入するのなら、これらのITツール導入は必須であり、多額の初期コストがかかります。
データ閲覧用のデバイスを導入する場合には、さらに多額のコストが発生しかねません。社員の数だけ購入しなくてはならず、相当な費用負担が発生します。費用以外に、ツールや機器を購入するための手配、社員への配布などさまざまな手間もかかるため、ペーパーレス化へ踏み切れない企業も少なくありません。
また、ペーパーレス化を進めるには社員教育も必要です。ペーパーレス化に伴い、業務オペレーションが大幅に変更される可能性があるため、新たに導入するデバイスの操作方法やITツールの使い方に関するレクチャー、ITリテラシー向上を狙った研修などを実施する必要があります。こうした社員教育にも費用がかかるほか、研修を外部の専門企業へ委託するとなるとなおさら多くの費用がかかります。
システム障害時に影響を受ける可能性がある
ペーパーレス化を実現すれば資料をオンライン上に保存するため、システム障害が発生した場合に、データへのアクセスやダウンロード、保存などができなくなるおそれがあります。
そうなれば、さまざまな業務に支障をきたすかもしれません。データへアクセスできないために、顧客からの問い合わせに適切に対応できず、クレームが発生する可能性も懸念されます。
クラウドサーバーやネットワークなどに障害が発生した際には、データを消失するリスクも発生します。万が一、膨大なデータが消失した場合には、どれほどの損失が発生するのか想像もつきません。顧客情報や自社のノウハウ、技術などがすべて失われると、競争力を失い事業の継続すら危ぶまれます。このようなことにならぬよう、データのバックアップは定期的に取得しましょう。
使用する回線の通信速度や安定性にも配慮が必要です。回線の通信速度が遅い、あるいは通信が安定しなくては、データのやり取りを円滑に行えません。たとえば、Web会議システムでやり取りをしている最中にも、音声や映像が途切れたり強制的に落ちたりしかねないため注意が必要です。
紙の電子化だけではペーパーレス化実現にはならない
「紙の電子化=ペーパーレス化」ではありません。これは、ただ書類を電子データ化しただけです。真のペーパーレス化とは、紙文書を使わないで済む業務環境や体制を整備することであり、そのなかに紙の電子化が含まれるイメージです。
そもそも、企業が扱う文書のなかには、電子化できないものもあります。たとえば、農地の賃貸借契約書や任意後見契約書、事業用借地権設定契約書などです。また、電子帳簿保存法においては、国税関係帳簿や決算関係書類のスキャナ保存もできません。やみくもに電子化を進めるのではなく、電子化が可能なものとそうでないものに関し、正しい知識を身につけたうえで取り組みましょう。
まず行うべきは紙文書の電子化ではなく、業務の効率化を含めた改善です。業務効率化への取り組みを進めるなかで不要な紙文書を見極めてゆき、そのうえでもっとも適したITツールやシステムを導入することが大事です。
ペーパーレス化の方法
ペーパーレス化を成功させるには、スモールスタートでの取り組みがおすすめです。業務の種類や部署単位など、小さな範囲でスタートし、様子を見ながら規模を拡大します。業務の種類別に進めていくのなら、申請・承認業務をワークフローシステムで行う、会議資料を電子データ化しタブレット端末で閲覧できるようにする、などが挙げられます。
なお、下記記事ではワークフローシステムで使用する申請書テンプレートの例を紹介しています。導入の際には、ぜひ参考にしてください。
ペーパーレス化へ取り組むときは、以下のステップに沿って進めるとスムーズです。
- ペーパーレス化の対象範囲や資料の選定
- 導入するツールやシステムの選定
- 社内への周知
- 効果検証と改善
まずは、ペーパーレス化の対象となる業務や部署、資料などを決めましょう。いきなり大規模で進めるのではなく、小規模で進めるのがおすすめです。施策の対象部署や文書を選定できたら、導入するツールやシステムを選ぶフェーズへと進みます。機能や費用はもちろんのこと、操作性やサポート体制などもチェックしたうえで選定を進めましょう。
ペーパーレス化を成功させるには、社員の理解を得なくてはなりません。ペーパーレス化が必要な理由や現場にもたらすメリットについて説明し、理解を得る努力をしましょう。強引に進めると高い確率で反感を買い、取り組みがとん挫しかねません。
システムやツールを導入し、ペーパーレスの運用が始まったら、効果検証も行いましょう。効果検証は、ペーパーレスによって起きた変化を具体的に確かめるために必要です。場合によっては、導入前より業務効率が低下している可能性も考えられるため、必ず行わなければなりません。
効果検証によって課題が浮き彫りになったら、改善をしたうえで再度運用し、一定期間をあけてまた検証を行います。こうして、PDCAサイクルを意識した運用を行うと、さらなる業務効率化につながります。
ペーパーレス化の事例
環境関連の事業を営むある企業では、申請・承認業務に紙を用いていました。エクセルで作成した申請書の使用により、承認者の印鑑取得や郵送などに多大な業務負担が発生していました。
そこで、同社はワークフローシステムの導入に踏み切ります。これにより、オンラインで申請や承認の状況を容易に把握できるようになり、決裁スピードの上昇につながりました。また、各拠点から大量に送られてきていた申請書もなくなり、管理負担の軽減を実現しています。
ペーパーレス化に効果的なツール
ペーパーレス化に効果的なツールが「AppRemo(アップリモ)」です。AppRemoはオンラインで申請・承認業務を行えるワークフローシステムであり、最大の特長はエクセルで作成した申請フォームをそのまま利用できる点です。これまで使用していたエクセル書式の申請書をそのまま活用でき、業務の属人化も回避できます。
さらに、申請・承認業務の円滑化に役立つさまざまな機能を実装していることも魅力です。申請画面内ではチャットを用いて不明点を解消できるほか、承認漏れを防止するポータル連携機能もあります。
もちろん、スマートフォンにも対応しているため、外出先でも問題なく承認業務を行えます。しかも、誰でも直感的に使用できる操作性であるため、ツールの使い方に関する大掛かりな研修などを開催する必要もありません。
まとめ
ペーパーレス化への取り組みによって、業務効率化やコストの削減、セキュリティ強化などさまざまなメリットを得られます。一方で、ペーパーレス化には、導入時に多大なコストがかかる、システム障害時に影響を受けるおそれがあるなどの注意点もあります。取り組みを行うなら、業務の種類や対象の部署を絞り、スモールスタートで始めるのがおすすめです。適切なステップに沿って、じっくりとペーパーレス化を進めましょう。
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