ペーパーレス化の完全ガイド|
中小企業でも今すぐ実践できる方法とおすすめツール

公開日 

「紙の使用量を減らしたいけれど、何から始めればいいかわからない」「ペーパーレス化に興味はあるが、本当に効果があるのか不安」そんな悩みを抱えている中小企業の経営者や担当者の方は多いのではないでしょうか。

近年、働き方改革やテレワークの普及、電子帳簿保存法の改正などを背景に、ペーパーレス化は企業規模を問わず重要な経営課題となっています。しかし、大企業と異なり、中小企業では予算や人的リソースが限られているため、どのように進めるべきか迷うケースが少なくありません。

本記事では、ペーパーレス化の基礎知識から具体的な実践方法、おすすめツールまで、中小企業が今日から取り組める情報を網羅的に解説します。実際の成功事例や失敗しないためのポイントも紹介することで、あなたの会社に最適なペーパーレス化の進め方が見つかるはずです。

この記事でわかること

  • ペーパーレス化の基本概念と中小企業が取り組むべき理由
  • 導入によるコスト削減効果と業務効率化の具体的なメリット
  • 請求書・契約書・会議資料など今すぐ実践できる電子化の方法
  • 中小企業におすすめのペーパーレス化ツールと選び方
  • 導入の手順と失敗しないための対策ポイント
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ペーパーレス化とは何か

ペーパーレス化とは何か

ペーパーレス化の定義と基本概念

ペーパーレス化とは、電子化などによって紙の使用をなくすことを指す言葉です。具体的には、ビジネスにおけるあらゆる文書を紙に印刷することなく、電子化して活用することを意味します。

ペーパーレス化の本来の目的は、単に紙をなくすことではなく、業務効率の向上やコスト削減を実現することにあります。これまで紙を使用していたビジネス文書などを電子化することにより、業務効率の向上を図ることが主眼となっています。

ペーパーレス化には大きく分けて2つのアプローチがあります。1つは、既存の紙書類をスキャナーなどで読み取ってPDFなどの電子ファイルに変換する方法です。もう1つは、最初から書類をExcelやWordなどのデジタルデータ(電子文書)として作成する方法で、こちらはそもそも紙を介在させない方法となります。

企業におけるペーパーレス化の対象となる主な文書には、以下のようなものがあります。

文書の種類 具体例
契約関係書類 取引契約書、業務委託契約書、秘密保持契約書
経理関係書類 請求書、見積書、納品書、領収書、帳簿
社内文書 稟議書、申請書、報告書、会議資料
人事関係書類 雇用契約書、労務管理書類、給与明細
営業資料 提案書、企画書、顧客管理資料、名刺

ビジネスシーン以外でも、学校のPTA文書がWebサービス上で配信されたり、漫画・小説などの書籍がスマートフォンのアプリ上で提供されたり、私生活でもペーパーレス化に接する機会が増えています。

ペーパーレス化が求められる社会的背景

近年、ペーパーレス化が強く求められるようになった背景には、いくつかの社会的要因が存在します。

法制度の整備と後押し

ペーパーレス化を可能にする法律が整備され、企業が安心して電子化に取り組める環境が整ってきました。2005年4月1日には、民間事業者が情報の管理や保存について情報技術を利用して行うための「e-文書法」が施行されました。この法律により、商法や税法で保管が義務づけられている文書について、紙文書だけでなく電子化された文書ファイルでの保存が認められるようになりました。

また、1998年施行の「電子帳簿保存法」では、これまで電子データ改ざんの懸念から多くの制約が存在していましたが、大幅な要件の見直しが行われ、2022年1月から「改正電子帳簿保存法」が施行されています。こうした法改正により、企業は法的な要件を満たしながらペーパーレス化を推進できるようになっています。

テレワークとDX推進の加速

テレワークの普及やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の要請により、ペーパーレス化が以前に増して注目されるようになっています。オフィスに出勤しなくても業務を円滑に進められる環境が求められる中、紙書類を前提とした働き方が見直されています。

テレワークを行うには、オフィスに出勤しなくても円滑に業務を進められる環境が必要で、企業やチーム内での資料やデータは電子化していつでもどこでも確認できる状態が求められています。紙の書類に押印するためだけに出社する必要性をなくし、場所を問わず柔軟に働ける環境を整備するためには、ペーパーレス化が不可欠となっています。

DX推進に向けた第一歩として、ペーパーレスに着手することが一般的になりつつあります。デジタル技術を活用して業務プロセスを変革し、競争力を高めていくためには、まず紙ベースの業務をデジタル化することが最初のステップとなります。

環境保護とSDGsへの取り組み

紙の使用量が減るという点では、企業のSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも注目されています。紙を減らすことは、森林伐採の回避につながるからです。持続可能な社会の実現に向けて、企業の社会的責任が重視される中、ペーパーレス化は環境保護への具体的な取り組みとして評価されています。

世界的に持続可能(サステナブル)な社会を目指す動きがあるため、ペーパーレス化は環境保全の観点からも意義があります。近年ではESG経営への関心も高まっており、企業として積極的に取り組むべきテーマといえます。

働き方改革と業務効率化の要請

国全体として働き方改革を進めていく中で、コロナ禍の影響もありテレワークの導入が進んでいます。長時間労働の是正や生産性の向上が求められる中、従来のワークフローから脱却して、業務効率や生産性の向上を実現させるためにペーパーレス化が求められています。

企業の経営者層を対象に実施した調査結果によれば、2022年の1年間にペーパーレス化を推進したと回答した企業は50%以上に上ります。多くの企業がすでにペーパーレス化に向けた取り組みを開始しており、今後さらに普及が進むことが予想されています。

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中小企業がペーパーレス化を進めるべき理由

中小企業がペーパーレス化を進めるべき理由

中小企業基盤整備機構による2023年の調査では、ペーパーレス化やデータ活用などをはじめとするDXの取り組みが必要だと思う中小企業は、全体の7割を超えています。しかし実際に取り組んでいる企業は3割程度にとどまるという調査結果も出ており、多くの中小企業が導入に苦戦しているのが現状です。ペーパーレス化は決して大企業だけのものではなく、むしろ限られたリソースで効率的な経営を求められる中小企業こそ、積極的に進めるべき施策です。

ここでは、中小企業がペーパーレス化を進めるべき具体的な理由を解説します。

コスト削減効果

ペーパーレス化によるコスト削減効果は、中小企業にとって最も大きなメリットのひとつです。紙媒体を使用している企業では、印刷コスト、用紙代、インク・トナー代、複合機の維持費、郵送料など、さまざまな費用が継続的に発生しています。

ペーパーレス化によって、文書・資料・帳票などの印刷や保管に使っている紙代、インク代、複合機の維持費、複数の複合機の購入代、郵送料などです。紙媒体の保管スペースにかかる管理費、賃料、備品(書類棚や鍵付き倉庫など)代の節約も可能です。

具体的なコスト削減の例として、毎月3,000枚を印刷する企業の印刷費は、印刷機の形態にもよりますが大体6万円です。もし資料の半分をペーパーレス化できれば、印刷代だけで毎年36万円のコスト節約になります。印刷代以外にも、紙代、ファイル代、倉庫代、管理のための人件費の節約にもつながるため、年間で40万円以上のコスト削減が期待できます。

コスト項目 削減内容 年間削減効果の目安
印刷コスト 用紙代、インク・トナー代 数万円〜数十万円
設備コスト 複合機の維持費・購入費 数万円〜数十万円
保管コスト 書類棚、倉庫の賃料、管理費 数万円〜数十万円
郵送コスト 書類郵送の切手代、配送料 数千円〜数万円
人件コスト 印刷・整理・保管にかかる作業時間 数十万円〜数百万円

さらに、中小企業がフリー株式会社の「クラウド会計ソフトfreee」を導入することで、ワークフローや経理関係の電子化によって年間作業時間は78%減らすことができ、(2,959時間→666時間)、年間コストは63%もの削減(675万2,668円→248万8,729円)が見込めるという試算データもあります。このように、業務の効率化ができれば、印刷や保管のコストだけでなく人的コストも大幅に抑えることができます。

業務効率化とテレワーク対応

ペーパーレス化は、業務効率化を実現し、テレワークなど柔軟な働き方を可能にする重要な施策です。紙媒体での業務では、必要な書類を探すのに時間がかかり、承認プロセスに出社が必要になるなど、さまざまな非効率が発生します。

文書がペーパーレス化されデータ化されることにより、検索機能を使えば必要な文書をすぐに見つけ出すことが可能となります。紙の資料を探すために書類棚を何度も往復したり、過去の資料を倉庫から取り出したりする手間が不要になり、業務のスピードが大幅に向上します。

業務フローをデジタルシフトしていくことで、紙のために出社することもなくなります。契約書への押印や請求書の処理、稟議書の承認など、これまで紙ベースで行っていた業務が電子化されれば、場所を問わず業務を進められるようになります。特に新型コロナウイルスの流行以降、テレワークの重要性が高まっており、ペーパーレス化はテレワーク推進の必須条件となっています。

また、ペーパーレス化で業務効率を上げることにより長時間労働の是正が図られ、ワークライフバランスの実現につながります。遠隔地の社員やリモートワーカーともスムーズに電子データをやりとりできるため、より快適な働き方を実現できます。

セキュリティ強化と情報管理

紙媒体での情報管理には、紛失、盗難、情報漏えいといったさまざまなセキュリティリスクが存在します。ペーパーレス化を進めることで、これらのリスクを大幅に低減し、より安全な情報管理が可能になります。

書類や資料を紙で保管する場合、紛失や盗難のリスクが高くなり、セキュリティー面が脆弱になります。データ化すればパスワードをかけたり社内メンバーしか閲覧できない設定にしたりすることで、セキュリティー対策の強化が可能です。

電子化された書類には、以下のようなセキュリティ対策を施すことができます。

セキュリティ対策 具体的な機能 効果
アクセス権限管理 閲覧・編集できる人を限定 不正アクセスの防止
パスワード保護 重要文書へのパスワード設定 第三者による不正閲覧の防止
変更履歴の記録 誰がいつ編集したかを記録 改ざんの検知と追跡
バックアップ機能 自動でデータをバックアップ 災害時のデータ消失防止
暗号化 データの暗号化保存 データ漏えい時の被害軽減

さらに、システム障害や災害などのトラブルに見舞われた時も、オンライン上でデータ保管しておけば自宅からでも確認でき、BCP対策にもなります。大規模な地震や火災などの災害が発生した場合、紙の書類は焼失や水没によって失われる可能性がありますが、クラウド上に保管された電子データは遠隔地のサーバーで管理されているため、安全に保護されます。

ペーパーレス化の促進は、印刷や保管の手間が削減できるだけでなく、収入印紙代を削減したり書類の改ざん防止や検知を高めることができます。電子化された書類には変更履歴が記録されるため、不正な改ざんがあった場合でも即座に検知できる体制が整います。

環境保護への貢献

ペーパーレス化は、企業の社会的責任(CSR)として、環境保護に貢献する重要な取り組みです。紙の消費を削減することは、森林資源の保護、CO2排出量の削減、廃棄物の減少につながり、持続可能な社会の実現に寄与します。

このような環境保全への取り組みは、近年、企業活動における重要な課題の一つとして挙げられています。ペーパーレス化によって、環境への配慮などの社会的責任に取り組む姿勢は、企業価値の向上にも役立つでしょう。環境への配慮は企業イメージの向上につながり、顧客や取引先からの信頼獲得、優秀な人材の確保にもプラスの効果をもたらします。

紙の使用削減による環境への具体的な効果は以下のとおりです。

環境への影響項目 ペーパーレス化による効果
森林資源の保護 紙の原料となる木材の使用量を削減し、森林伐採を抑制
CO2排出量の削減 紙の製造・輸送過程で発生するCO2を削減
水資源の保護 紙の製造に必要な大量の水の使用を削減
廃棄物の削減 不要になった紙の廃棄量を削減し、焼却処分によるCO2排出を抑制
エネルギー消費の削減 紙の製造・印刷に必要なエネルギーを削減

特に中小企業にとって、ペーパーレス化は大規模な設備投資を伴わずに環境保護に貢献できる現実的な手段です。SDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まる中、取引先や顧客から環境への配慮を求められる機会も増えており、ペーパーレス化への取り組みは企業の競争力を高める要素にもなります。

また、環境に配慮した経営を実践することで、ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する投資)の対象となる可能性も高まります。環境負荷の低減に真剣に取り組む企業として認知されることは、資金調達の面でも有利に働く可能性があります。

ペーパーレス化のメリットとデメリット

ペーパーレス化のメリットとデメリット

ペーパーレス化は企業にさまざまな効果をもたらしますが、導入にあたってはメリットとデメリットの両方を正確に理解しておくことが重要です。ここでは、ペーパーレス化による具体的な効果と、導入時に注意すべき課題について詳しく解説します。

ペーパーレス化の主なメリット

ペーパーレス化を推進することで、企業は多岐にわたる実質的な利益を得ることができます。それぞれのメリットを具体的に見ていきましょう。

コスト削減効果

ペーパーレス化によって、用紙代、印刷コスト、郵送代など直接的な経費を大幅に削減できます。モノクロ印刷1枚あたりのコストは2円から3円程度ですが、1日2,000枚印刷する企業の場合、年間で80万円から120万円もの印刷コストがかかる計算になります。これらの費用をペーパーレス化によって削減または大幅に減らすことが可能です。

また、紙を保管するためのキャビネットや倉庫といった物理的なスペースも不要になり、オフィスの賃貸面積を縮小できる可能性もあります。書類の印刷や配布、整理にかかっていた人件費も削減でき、その分のリソースをより生産的な業務に振り向けることができます。

業務効率の大幅な向上

電子化された文書は検索機能を使って瞬時に必要な情報を見つけられるため、紙の書類を探す手間が省けます。これまで書類の保管場所を探したり、ファイルを一つ一つ確認したりしていた時間を、本来の業務に充てることができるようになります。

稟議書や申請書などの社内手続きも、オンライン上で完結できるため、わざわざ上司のところまで書類を運んで印鑑をもらい、次の承認者へ回覧するといった手間が不要になります。会議資料を大量に印刷する必要もなくなり、資料作成から配布までの工数を大幅に削減できます。

テレワークへの対応とワークスタイルの変革

ペーパーレス化は、リモートワークやテレワークの推進に大きく貢献します。クラウド上で文書を管理すれば、オフィス以外の場所からでも必要な資料にアクセスできるため、書類確認のためだけに出社する必要がなくなります。

このことは通勤交通費の削減につながるだけでなく、従業員の移動時間を削減し、その分を実務に充てることで人件費の効率化も実現できます。遠方への出張機会も減らせるため、交通費や宿泊費の大幅な削減にもつながります。

情報セキュリティの強化

紙の文書は紛失や盗難のリスクがあり、一度流出すると取り返しがつきません。一方、電子化された文書には、閲覧者の制限、ダウンロードの禁止、アクセス履歴の記録など、さまざまなセキュリティ機能を設定できます。

パスワード保護や暗号化によって、権限のない人物による不正アクセスを防ぐこともできます。また、データのバックアップを定期的に取ることで、万が一の災害時にも重要な文書を保護できます。

情報共有のスピード向上

電子化された文書は、メールやクラウドストレージを通じて、距離が離れている相手にも瞬時に共有できます。複数の拠点がある企業や、取引先とのやり取りが多い企業にとって、情報共有のスピードアップは大きな競争優位性となります。

また、複数人で同時に同じ文書を閲覧・編集することも可能になり、コラボレーションの質が向上します。リアルタイムでの情報共有により、意思決定のスピードも速くなります。

環境保護への貢献

紙の使用量を削減することは、森林資源の保護につながります。SDGs(持続可能な開発目標)や脱炭素が重視される現代において、ペーパーレス化は企業の環境への取り組みを示す重要な指標となります。

環境への配慮を実践する企業として社会的な評価が高まり、ブランドイメージの向上や、環境意識の高い顧客からの支持を得ることにもつながります。

メリットの種類 具体的な効果
コスト削減 用紙代、印刷代、郵送代、保管スペース費用、人件費の削減
業務効率化 検索時間の短縮、承認プロセスの迅速化、会議準備の効率化
働き方改革 テレワーク対応、移動時間の削減、柔軟な勤務体制の実現
セキュリティ アクセス制限、閲覧履歴の記録、バックアップによるリスク軽減
情報共有 リアルタイムな共有、遠隔地との連携強化、同時編集の実現
環境貢献 森林資源の保護、CO2排出削減、企業イメージの向上

導入時に注意すべきデメリットと課題

ペーパーレス化には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットや課題も存在します。これらを事前に理解し、適切な対策を講じることが成功への鍵となります。

視認性と一覧性の低下

パソコンやタブレット端末の画面サイズには限りがあるため、一度に表示できる情報量が紙の資料よりも少なくなります。複数の資料を同時に比較したい場合や、大きな表やグラフを確認したい場合、デジタル環境では不便に感じることがあります。

文字が細かい資料の場合、画面サイズによっては読みにくく、拡大と縮小を繰り返す必要が生じます。紙の資料であれば机の上に何枚でも広げられますが、デジタル資料では画面の切り替えやウィンドウの操作が必要となり、作業効率が落ちる可能性があります。

対策としては、デジタルデータとして閲覧することを前提に、既存の書類のフォーマットを見直すことが有効です。画面上で見やすいレイアウトに変更したり、重要な情報を適切に強調したりすることで、視認性の問題を軽減できます。

導入時のコストと労力

ペーパーレス化を実現するためには、パソコンやタブレット端末などのハードウェア、文書管理システムやクラウドサービスなどのソフトウェアへの初期投資が必要です。従業員全員分の機器を揃えるとなると、相当な費用がかかります。

また、既存の紙の文書を電子化する作業にも時間と労力がかかります。膨大な量の資料が保管されている場合、どの文書を電子化すべきか精査する手間も発生します。新しいツールの使い方を習得するための教育コストも考慮しなければなりません。

ただし、長期的に見れば、印刷コストや保管スペース費用、業務効率化による人件費削減などによって、初期投資を回収できる可能性が高いため、ペーパーレス化によって得られる節減効果とのバランスを考慮して費用対効果を試算することが重要です。

ITリテラシーの差と従業員の抵抗感

社員全体のITリテラシーには差があり、世代によっては紙媒体の方が使いやすいと感じる人もいます。デジタル機器の操作に慣れていない従業員にとって、ペーパーレス化は大きな負担となる可能性があります。

長年紙で業務を行ってきた従業員ほど、新しいシステムへの移行に抵抗を感じやすく、「今までのやり方で問題ない」と考えがちです。この抵抗感を解消しないまま導入を進めると、システムが十分に活用されず、ペーパーレス化が形骸化してしまう恐れがあります。

対策としては、ペーパーレス化の必要性やメリットを十分に説明し、従業員全体の理解と協力を得ることが不可欠です。段階的に導入を進め、使いやすいツールを選定し、丁寧な教育とサポート体制を整えることで、スムーズな移行が可能になります。

システム障害とデータ消失のリスク

クラウドサービスを利用している場合、インターネットの通信環境やサーバー障害によって、必要なときに資料にアクセスできなくなる可能性があります。保管環境や使用端末が故障した場合、データが消失するリスクもゼロではありません。

紙の資料であれば物理的に存在し続けますが、電子データは適切に管理しないと一瞬で失われる可能性があります。特に重要な文書については、バックアップ体制を整えておくことが必須です。

システム障害は起こり得るものと捉え、データのバックアップを自動化したり、複数の場所に保存したりするなど、リスク管理の仕組みを構築することが重要です。また、トラブル発生時の対処法を事前に決めておくことも大切です。

電子化できない書類の存在

全ての書類が電子化できるわけではありません。法律によって紙の書類での保管が義務付けられているものや、電子化に相手方の同意が必要な書類も存在します。

例えば、任意後見契約書や事業用定期借地権設定のための契約書などは、電子化できない書類の代表例です。これらの書類は引き続き紙で管理する必要があるため、電子文書と紙文書の両方を管理する体制が必要となり、管理が煩雑になる可能性があります。

ペーパーレス化を進める際には、社内で扱う書類を電子化できるものと必要のないものに分類し、どこまで電子化するかの方針を明確にすることが重要です。また、e-文書法電子帳簿保存法といった関連法規を遵守する必要があります。

メモや書き込みの不便さ

紙の資料であれば余白に直接メモを取ったり、重要な箇所にマーカーを引いたりすることが簡単にできます。しかし、デジタル環境では、このような直感的な操作が難しい場合があります。

タッチペン対応のタブレット端末を使えば紙と同じような操作感を実現できますが、全従業員にそうした機器を支給するにはコストがかかります。また、使いこなすまでに時間がかかる場合もあります。

対策としては、タッチペンが使用可能なデバイスに切り替える、または注釈機能が充実した文書管理ツールを選定することで、この課題を軽減できます。

デメリット・課題 具体的な問題点 対策方法
視認性の低下 画面サイズの制限、一度に見られる情報量の減少 デジタル前提のフォーマット作成、大画面ディスプレイの活用
導入コスト ハードウェア、ソフトウェアの初期投資、教育費用 費用対効果の試算、段階的な導入、クラウドサービスの活用
ITリテラシーの差 デジタル機器への不慣れ、従業員の抵抗感 丁寧な教育、使いやすいツール選定、段階的な移行
システム障害 通信障害、サーバー障害、データ消失のリスク バックアップの自動化、複数拠点での保存、対処マニュアル作成
電子化不可書類 法律で紙保管が義務付けられた書類の存在 書類の分類、紙と電子の並行管理体制の構築
操作性の課題 メモや書き込みの不便さ タッチペン対応端末の導入、注釈機能充実のツール選定

ペーパーレス化は、メリットとデメリットの両方を正しく理解し、自社の状況に合わせて適切に導入することで、大きな成果を上げることができます。デメリットに対する対策を事前に検討し、従業員一丸となって取り組むことが、ペーパーレス化成功の鍵となります。

ペーパーレス化を始める前の準備

ペーパーレス化を始める前の準備

ペーパーレス化を成功に導くためには、事前の準備が極めて重要です。準備を怠ったまま進めてしまうと、社内の混乱を招き、かえって業務効率が低下する恐れがあります。ここでは、スムーズにペーパーレス化を進めるための具体的な準備手順を解説します。

現状の紙文書使用状況を把握する

ペーパーレス化の第一歩は、自社の現状を正確に把握することから始まります。どの部署でどのような紙文書が使用されているのか、定量的・定性的に調査しましょう。

使用している紙文書の種類と量を洗い出す

まず、社内で使用されている紙文書の種類を洗い出します。契約書、請求書、見積書、稟議書、会議資料、マニュアル、名刺など、業務で使われているすべての紙文書をリストアップしてください。

各部署にヒアリングを行い、紙文書の使用頻度や枚数、保管状況を把握します。月間・年間でどれくらいの印刷枚数があるか、保管スペースにどの程度の面積を使っているかなど、数値として把握することで、後の効果測定の基準となります。また、印刷コストや用紙代、保管コストなどの現状費用も試算しておくと、ペーパーレス化による削減効果を明確に示せます。

紙文書の利用フローを可視化する

紙文書がどのように作成され、承認され、保管されているのか、業務フローを可視化します。例えば、稟議書であれば「起案→上長確認→部門長承認→経理部門確認→保管」といった流れを図式化してください。

この作業により、どの工程で紙が必要とされているのか、どの部分がボトルネックになっているのかが明確になります。特に、複数の部署を跨ぐ承認フローでは、紙の回覧に時間がかかるケースが多く、電子化による時間短縮効果が大きく期待できます。

法的保管義務のある文書を確認する

電子帳簿保存法などの法令により、一定期間の保管が義務付けられている文書があります。これらの文書については、電子化が可能かどうか、どのような要件を満たす必要があるのかを確認する必要があります。

国税関係書類、会社法上の書類、労働関係書類など、法的保管義務のある文書をリストアップし、電子保存の要件を整理しましょう。特に電子帳簿保存法では、タイムスタンプの付与や検索機能の確保など、具体的な要件が定められています。

調査項目 具体的な内容 調査方法
文書の種類 契約書、請求書、見積書、稟議書、会議資料、マニュアル、名刺など 各部署へのヒアリング、実地調査
使用量 月間・年間の印刷枚数、保管スペースの面積 印刷ログの分析、保管場所の実測
コスト 用紙代、印刷費、保管コスト、人件費 経理データの集計、試算
業務フロー 作成から保管までの流れ、承認ルート 業務マニュアルの確認、現場観察
法的要件 保管義務のある文書、保管期間、電子化の要件 法令の確認、専門家への相談

ペーパーレス化の目標設定

現状把握ができたら、次はペーパーレス化の目標を明確に設定します。目標が曖昧なままでは、ペーパーレス化自体が目的化してしまい、本来得られるはずの効果を十分に享受できません。

何のためにペーパーレス化するのか目的を明確にする

ペーパーレス化の目的は企業によって異なります。コスト削減、業務効率化、テレワーク環境の整備、セキュリティ強化、環境保護への貢献など、自社が何を最も重視するのかを明確にしましょう。

例えば、「印刷コストを年間30%削減する」「承認プロセスにかかる時間を50%短縮する」「テレワーク実施率を80%にする」といった具体的な目的を設定します。目的が明確であれば、どの紙文書から優先的に電子化すべきか、どのツールを選ぶべきかの判断基準となります。

達成したい具体的な数値目標を設定する

抽象的な目標ではなく、測定可能な数値目標を設定することが重要です。KPI(重要業績評価指標)を設定し、進捗状況を定期的に評価できるようにします。

具体的な数値目標の例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 印刷枚数を現状の月間10,000枚から3,000枚に削減
  • 紙文書の保管スペースを50㎡から10㎡に縮小
  • 請求書処理にかかる時間を1件あたり15分から5分に短縮
  • 契約書の締結期間を平均10日から3日に短縮
  • 年間の用紙・印刷コストを500万円から150万円に削減

優先順位と実施スケジュールを決める

すべての紙文書を一度に電子化するのは現実的ではありません。現状把握で得られた情報をもとに、効果が大きく、実施が容易なものから優先的に取り組むことが成功の鍵です。

優先順位を決める際の判断基準として、以下の点を考慮します。

  • 使用頻度の高さ:日常的に使われる文書ほど効果が大きい
  • コスト削減効果:印刷枚数が多い文書ほど削減効果が高い
  • 業務への影響度:承認に時間がかかる文書ほど効率化の効果が大きい
  • 実施の容易さ:社内で完結する文書から始める
  • 法的要件:電子化に法的制約がない文書を優先

例えば、第1段階では会議資料や社内マニュアルなど社内完結型の文書を電子化し、第2段階で請求書や見積書、第3段階で契約書といったように段階的に進めます。各段階の実施期間を3~6ヶ月程度に設定し、導入後の効果測定と改善を行いながら次の段階へ進むとスムーズです。

段階 対象文書 期間目安 期待効果
第1段階 会議資料、社内マニュアル、教育資料 1~3ヶ月 印刷コスト削減、情報共有の迅速化
第2段階 請求書、見積書、経費精算書 3~6ヶ月 経理業務の効率化、承認時間の短縮
第3段階 契約書、稟議書、人事関連書類 6~12ヶ月 意思決定の迅速化、テレワーク対応
第4段階 過去文書のアーカイブ化 12ヶ月~ 保管スペースの削減、検索性の向上

社内の理解と協力を得る方法

ペーパーレス化は、一部の部署だけで完結するものではありません。全社的な取り組みとして成功させるためには、経営層から現場の従業員まで、すべての関係者の理解と協力が不可欠です。

経営層や意思決定者の承認を得る

ペーパーレス化には、ツールの導入費用や人員の確保など、一定の投資が必要です。経営層や意思決定者に対して、ペーパーレス化の必要性とメリットを具体的な数値で示し、予算と人員の承認を得ることが重要です。

プレゼンテーション資料には、現状の課題、目標とする効果、必要な投資額、投資回収期間などを明記します。特に、コスト削減効果や業務効率化による生産性向上を定量的に示すことで、経営判断を得やすくなります。また、競合他社の事例や業界動向なども併せて提示すると、説得力が増します。

現場の従業員から意見を収集する

ペーパーレス化を実際に運用するのは現場の従業員です。トップダウンで一方的に導入を進めると、現場の抵抗感が強くなり、スムーズな定着を妨げる要因となります。

事前に各部署の代表者や実務担当者からヒアリングを行い、現場の課題やニーズを把握しましょう。「どの業務で紙が無駄だと感じているか」「電子化されると困ることは何か」など、率直な意見を収集します。現場の声を反映することで、実用的なペーパーレス化の計画を立てられるだけでなく、従業員の当事者意識も高まります。

ペーパーレス化のメリットを社内に周知する

従業員の中には、新しいシステムやツールの導入に対して不安を感じる人もいます。特に、長年紙での業務に慣れている従業員ほど、変化への抵抗感が強い傾向があります。

社内説明会やワークショップを開催し、ペーパーレス化によって得られるメリットを丁寧に説明しましょう。「検索が簡単になる」「外出先でも資料を確認できる」「承認待ちの時間が減る」など、従業員一人ひとりにとっての具体的なメリットを示すことが効果的です。

また、導入初期には一時的に作業負担が増える可能性があることも正直に伝え、その期間をどのようにサポートするのかも併せて説明します。透明性のあるコミュニケーションを心がけることで、従業員の理解と協力を得やすくなります。

推進チームや責任者を明確にする

ペーパーレス化プロジェクトを成功させるには、専任の推進チームや責任者を設置することが重要です。各部署から代表者を選出し、部門横断的なプロジェクトチームを組織しましょう。

推進チームの役割は、計画の立案、ツールの選定、社内周知、従業員教育、運用ルールの策定、進捗管理、効果測定などです。責任者を明確にすることで、問題が発生した際の相談窓口も明確になり、現場の不安を軽減できます。

定期的にプロジェクト会議を開催し、進捗状況の共有や課題の解決策を検討します。また、経営層への定期報告も行い、必要に応じて追加のサポートや予算の調整を依頼します。

対象者 アプローチ方法 重点ポイント
経営層 プレゼンテーション、費用対効果の提示 コスト削減効果、ROI、競合事例
管理職 説明会、部門別ミーティング 業務効率化、マネジメント負担の軽減
一般従業員 ワークショップ、デモンストレーション 日常業務での利便性、操作の簡単さ
IT部門 技術的な仕様確認、システム連携協議 セキュリティ対策、既存システムとの統合

中小企業が今すぐ実践できるペーパーレス化の方法

中小企業が今すぐ実践できるペーパーレス化の方法

ペーパーレス化は一度にすべてを実行する必要はありません。業務のなかで紙を多く使用する領域から段階的に電子化を進めることで、無理なく導入を進められます。ここでは、中小企業でも今日から取り組める具体的なペーパーレス化の方法を5つの領域に分けて解説します。

請求書や見積書の電子化

請求書や見積書は、取引先とのやり取りで頻繁に発生する書類です。従来の紙ベースでの発行・郵送・保管には、印刷コスト、郵送料、保管スペース、さらには作成・発送の人件費など、多くのコストが発生していました。

請求書や見積書を電子化することで、これらのコストを大幅に削減でき、発行から送付までの時間も短縮できます。PDF形式で作成した請求書をメール送付するだけでも効果は高く、取引先も電子データで保管できるため、双方にメリットがあります。

電子化を進める際は、請求書作成ソフトやクラウド会計ソフトを活用すると便利です。これらのツールを使用すれば、請求書の作成から送付、入金管理までを一元管理でき、取引履歴もデータとして蓄積されます。電子帳簿保存法に対応したシステムを選べば、法的要件を満たしながら保管することも可能です。

項目 紙ベース 電子化
発行コスト 印刷代、用紙代、郵送料が毎回発生 ほぼゼロ(システム利用料のみ)
送付時間 印刷・封入・郵送で数日 即時送付可能
保管スペース ファイリングスペースが必要 クラウド上で保管、場所不要
検索性 ファイルから手作業で探す キーワードや日付で瞬時に検索
紛失リスク 高い バックアップで低減

取引先によっては紙の請求書を希望する場合もあるため、段階的に電子化の対応可能な取引先から始めることをおすすめします。

契約書の電子署名導入

契約書は企業活動において非常に重要な文書ですが、従来は紙で作成し、印鑑を押印して郵送するという手間のかかるプロセスが必要でした。契約書のやり取りには数日から数週間かかることもあり、ビジネスのスピードを遅らせる要因となっていました。

電子契約サービスを導入すれば、契約書の作成から署名、保管までをオンライン上で完結でき、契約締結のスピードが飛躍的に向上します。電子署名は法的にも有効であり、電子署名法に基づいて本人確認と改ざん防止の機能を備えています。

電子契約の導入メリットは以下の通りです。

  • 契約締結までの時間短縮(数週間から数時間へ)
  • 印紙税が不要になることによるコスト削減
  • 郵送コストや印刷コストの削減
  • 契約書の保管スペースが不要
  • 検索機能による過去の契約書の即座の確認
  • タイムスタンプによる改ざん防止

電子契約サービスには、「クラウドサイン」や「DocuSign」など、使いやすいツールが複数存在します。取引先も同じサービスを使う必要はなく、メールアドレスがあれば署名依頼を送れる仕組みのため、導入のハードルは低いといえます。

ただし、一部の契約書(定期借地契約など)は電子化が認められていない場合もあるため、契約の種類によって確認が必要です。

会議資料のデジタル化

会議のたびに資料を人数分印刷し、配布するという習慣は、多くの企業で当たり前に行われてきました。しかし、会議資料の印刷には時間とコストがかかり、会議後には不要になる資料も多く、無駄が発生していました。

会議資料をデジタル化し、タブレットやノートパソコンで閲覧する形式に変えることで、印刷コストの削減と会議準備時間の短縮が実現できます。資料の修正も直前まで可能になり、常に最新の情報を共有できるメリットもあります。

会議資料のデジタル化を進める具体的な方法は以下の通りです。

  • 会議資料をPDFで作成し、事前にメールやチャットで共有
  • クラウドストレージ(Google DriveやDropbox、OneDriveなど)に資料をアップロードし、参加者にリンクを共有
  • プロジェクターやモニターに資料を投影し、参加者は各自の端末で閲覧
  • オンライン会議ツール(Zoom、Microsoft Teams、Google Meetなど)で画面共有

デジタル化した会議資料は、会議後もクラウド上に保存しておけば、いつでも参照できます。会議の議事録と資料を紐づけて保管することで、情報の一元管理も可能になります。

会議のペーパーレス化を成功させるには、参加者全員が端末を持参することが前提となります。社内の理解を得ながら、まずは特定の会議から試験的に導入し、徐々に範囲を広げていくことが効果的です。

名刺管理のペーパーレス化

名刺は営業活動やビジネスの出会いで欠かせないものですが、紙の名刺は管理が煩雑で、必要なときに見つからない、情報が古くなっているといった問題が起こりがちです。名刺ファイルに保管しても、検索性が低く、社内での情報共有も困難でした。

名刺管理アプリやクラウドサービスを活用すれば、受け取った名刺をスマートフォンで撮影するだけでデータ化でき、社内全体で顧客情報を共有できます。名刺情報がデータベース化されることで、取引先の検索や営業活動の履歴管理も効率化されます。

名刺管理のペーパーレス化によって得られる効果は以下の通りです。

  • 名刺情報のデジタル化による検索性の向上
  • 社内での顧客情報の共有と一元管理
  • 名刺の紛失リスクの低減
  • CRM(顧客関係管理)システムとの連携
  • 名刺交換の履歴や商談記録の紐づけ

代表的な名刺管理サービスには、「Sansan」、「Eight」、「Wantedly」などがあります。これらのサービスは、OCR(光学文字認識)技術を使って名刺の文字を自動でデータ化し、クラウド上で管理できます。チームで情報を共有できる機能もあり、営業部門での活用に特に効果的です。

名刺をスキャンする作業は最初は手間に感じるかもしれませんが、一度データ化してしまえば、長期的には大幅な業務効率化につながります。

社内文書の共有クラウド化

社内の申請書、報告書、マニュアル、手順書などの文書を紙で管理していると、保管場所の確保、検索の手間、情報の共有の遅れなど、さまざまな課題が生じます。特にテレワークが普及した現在では、オフィスに保管された紙の文書にアクセスできないという問題も顕在化しています。

社内文書をクラウドストレージに保管し、必要な人がいつでもどこでもアクセスできる環境を整えることで、業務の効率化とテレワーク対応が同時に実現します。クラウド化により、複数人での同時編集や、バージョン管理も容易になります。

社内文書のクラウド化を進める際のステップは以下の通りです。

  1. 現在使用している紙の文書をリストアップし、電子化の優先順位をつける
  2. クラウドストレージサービス(Google Drive、Dropbox Business、Microsoft OneDrive、Box など)を選定
  3. 文書の分類ルールやフォルダ構成を決定
  4. 既存の紙文書をスキャンしてPDF化し、クラウドにアップロード
  5. 今後作成する文書は最初からデジタル形式で作成し、クラウドに保存
  6. アクセス権限を設定し、適切な人だけが閲覧・編集できるようにする
文書の種類 クラウド化の効果 注意点
社内申請書(休暇申請、経費精算など) ワークフローシステムと連携し承認プロセスを効率化 承認フローを事前に整理
業務マニュアル・手順書 最新版を常に共有、検索も容易 更新ルールを明確にする
報告書・議事録 過去の記録を即座に検索・参照可能 ファイル名のルールを統一
契約書・重要書類 セキュリティ強化、バックアップで紛失防止 アクセス権限を厳格に設定

クラウドストレージを選ぶ際は、セキュリティ対策が充実しているか、容量や料金プランが自社に適しているか、既存のツールとの連携ができるかなどを確認することが重要です。

社内文書のクラウド化は、ペーパーレス化の中でも特に効果が大きい取り組みです。情報へのアクセス性が向上し、リモートワークにも対応できるため、働き方改革の推進にもつながります。

ペーパーレス化におすすめのツール

ペーパーレス化におすすめのツール

ペーパーレス化を効果的に進めるためには、業務の種類や目的に合った適切なツールを選定することが重要です。ここでは、中小企業でも導入しやすく、実績のある5つのツールをご紹介します。

Excel申請書が使えるワークフローシステム「AppRemo」

AppRemoは、ワークフローや経費精算など、社内の申請業務をペーパーレス化できるツールです。申請から承認までの一連の流れをシステム上で完結させることができるため、紙の申請書を廃止し、業務スピードの向上と内部統制の強化を同時に実現できます。

主な機能は以下の通りです。

機能 概要
申請フォーム作成 各種申請書をシステム上で自由に作成可能
承認フロー設定 部署や金額に応じた柔軟な承認ルートを設定
モバイル対応 スマートフォンやタブレットから申請・承認が可能
データ出力 申請データをCSV形式で出力し、他システムと連携

特に中小企業では、稟議書や休暇申請、経費精算など、さまざまな申請書類が日常的に発生しています。AppRemoを導入することで、これらの申請業務を一元管理し、承認待ちの書類が誰のところで止まっているのかを可視化できるため、業務の停滞を防止できます。

また、紙の申請書を使っていた頃に発生していた「上司が不在で承認が進まない」「申請書を紛失してしまった」といった問題も解消され、テレワーク環境でも円滑に業務を進めることができます。

会計ソフト「freee会計」

freee会計は、クラウド型の会計ソフトで、請求書や経費精算、銀行取引などの経理業務をペーパーレスで行えるツールです。電子帳簿保存法に完全対応しており、法律に則った形で会計書類を電子保管できるため、税務調査の際にも安心です。

主な機能は以下の通りです。

機能 概要
請求書作成・送付 見積書・請求書・納品書を電子発行し、メールで送付可能
銀行口座連携 銀行口座やクレジットカードと連携し、自動で仕訳を提案
経費精算機能 レシートをスマホで撮影するだけで経費データを取り込み
電子帳簿保存法対応 電子取引データを法令に基づいて保存
確定申告書作成 会計データから自動で確定申告書を作成

中小企業や個人事業主にとって、経理業務は時間がかかる上に専門知識が必要な分野です。freee会計を導入すれば、銀行口座やクレジットカードの取引明細を自動で取り込み、AIが仕訳を提案してくれるため、経理の専門知識がなくても正確な会計処理が可能になります。

また、請求書を紙で郵送していた企業は、freee会計を使うことで請求書の電子発行・送付が可能になり、印刷コストや郵送コスト、作業時間を大幅に削減できます。電子帳簿保存法への対応機能も標準搭載されているため、追加のシステム導入は不要です。

電子契約サービス「クラウドサイン」

クラウドサインは、契約業務をオンラインで完結できる電子契約サービスです。紙の契約書に代わって電子署名とタイムスタンプを付与することで、法的効力のある契約を締結できるため、契約業務の大幅な効率化とコスト削減を実現します。

主な機能は以下の通りです。

機能 概要
電子契約締結 契約書をPDFでアップロードし、オンラインで署名・捺印
タイムスタンプ付与 契約締結の時刻を証明し、改ざん防止を実現
契約書管理 締結した契約書をクラウド上で一元管理し、検索も容易
テンプレート機能 よく使う契約書をテンプレート化して業務効率を向上
モバイル対応 スマートフォンからも契約締結が可能

従来の紙の契約書では、印刷・製本・押印・郵送といった多くの工数が発生していました。さらに、相手方の押印を待つ時間や郵送にかかる時間も必要で、契約締結まで数日から数週間かかることも珍しくありませんでした。

クラウドサインを導入すれば、契約書をメールで送信し、相手方がオンラインで署名するだけで契約が成立するため、最短即日での契約締結が可能になります。印紙税も不要になるため、高額な契約が多い企業ほどコスト削減効果が大きくなります。

また、締結済みの契約書はクラウド上で一元管理されるため、「過去の契約書を探す」という作業も検索機能で瞬時に完了します。契約更新日の管理もシステム上で行えるため、契約更新の漏れを防ぐことができます。

文書管理ツール「Dropbox Business」

Dropbox Businessは、企業向けのクラウドストレージサービスで、社内文書や資料をクラウド上で保管・共有できるツールです。ファイルサーバーの代わりとして活用することで、場所を問わずどこからでもファイルにアクセスでき、テレワーク環境でも円滑な情報共有が可能になります。

主な機能は以下の通りです。

機能 概要
大容量ストレージ プランに応じて数TB以上のストレージ容量を利用可能
ファイル共有 社内外とファイルやフォルダを簡単に共有
バージョン管理 ファイルの過去のバージョンを保存し、必要に応じて復元可能
権限設定 ユーザーごとに閲覧・編集・ダウンロードの権限を細かく設定
モバイル対応 スマートフォンやタブレットからファイルにアクセス可能
他ツール連携 Microsoft OfficeやSlackなど、各種ツールと連携

従来のファイルサーバーでは、社内のネットワークに接続しなければファイルにアクセスできないという制約がありました。そのため、外出先や自宅から資料を確認したい場合には、VPN接続などの複雑な設定が必要でした。

Dropbox Businessを導入すれば、インターネット環境さえあれば、どこからでもファイルにアクセスできるようになります。営業担当者が外出先で最新の提案資料を確認したり、テレワーク中の社員が自宅から会議資料を閲覧したりすることが容易になります。

また、ファイルの共有も簡単で、共有リンクを発行するだけで取引先や協力会社とファイルをやり取りできます。大容量のファイルをメールに添付する必要がなくなり、メールサーバーの容量圧迫も防げます。

バージョン管理機能により、誤ってファイルを上書きしてしまった場合でも、以前のバージョンに戻すことができるため、データの紛失リスクも低減できます。

名刺管理ツール「Sansan」

Sansanは、名刺管理に特化したクラウドサービスで、紙の名刺をデジタル化して一元管理できるツールです。名刺をスキャンまたはスマートフォンで撮影するだけで、自動的にデータ化され、社内全体で顧客情報を共有できるため、営業活動の効率化と機会損失の防止に貢献します。

主な機能は以下の通りです。

機能 概要
名刺のデータ化 スマホで撮影またはスキャナで取り込み、自動でデータ化
高精度データ入力 AIとオペレーターのダブルチェックで99.9%の精度を実現
社内共有機能 社内の誰がどんな人脈を持っているかを可視化
検索機能 会社名・氏名・役職などから瞬時に名刺を検索
人事異動通知 取引先の人事異動情報を自動で通知
SFA/CRM連携 営業支援システムや顧客管理システムとデータ連携

従来の名刺管理では、各営業担当者が個別に名刺入れやファイルで管理しており、他の社員が持つ人脈を活用できないという課題がありました。また、名刺を紛失してしまったり、必要な時に名刺が見つからなかったりすることもありました。

Sansanを導入すれば、受け取った名刺はすぐにデータ化され、社内全体で共有されるため、「あの会社の担当者に連絡を取りたいが、誰が名刺を持っているか分からない」という問題が解消されます。社内の人脈を組織の資産として活用できるようになるのです。

また、検索機能を使えば、数千枚の名刺の中から特定の人物の連絡先を瞬時に見つけることができます。紙の名刺を手作業で探していた時間が不要になり、営業活動に集中できる時間が増えます。

人事異動通知機能により、取引先の担当者が異動や退職した際に自動で通知を受け取ることができるため、タイミングを逃さず新しい担当者にアプローチすることができます。これにより、ビジネスチャンスの損失を防ぐことができます。

これら5つのツールは、それぞれ異なる業務領域をカバーしており、自社の課題や優先順位に合わせて選定することが重要です。多くのツールは無料トライアルを提供しているため、実際に使用感を確かめてから導入を決定することをおすすめします。

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ペーパーレス化の導入ステップ

ペーパーレス化の導入ステップ

ペーパーレス化を成功させるには、計画的かつ段階的に進めることが重要です。ここでは、中小企業でもスムーズに実行できる具体的な導入ステップを解説します。

ステップ1 導入範囲の決定

ペーパーレス化は影響範囲が広く、一気に進めるのは困難なため、まずは「何のためにペーパーレス化に取り組むのか」という目的を明確にしましょう。目的が曖昧なままでは、ペーパーレス化自体が目的となってしまい、本来得られるべき成果につながりません。

ペーパーレス化を進める目的と対象を明確にすることで、導入すべきツールや施策が自然と絞り込まれます。目標とするゴールの例としては、業務効率化・コスト削減・テレワーク推進・セキュリティ強化などが挙げられます。

目的 対象となる書類の例 期待される効果
業務効率化 社内申請書、稟議書、決裁書 承認スピードの向上、検索時間の短縮
コスト削減 会議資料、報告書、マニュアル 印刷費・用紙代・保管スペースの削減
テレワーク対応 契約書、請求書、見積書 場所を問わない業務遂行
セキュリティ強化 顧客情報、機密文書、人事情報 アクセス制限、紛失リスクの低減

ペーパーレス化の対象とする紙を絞り込み、優先順位を決めることで、「どの部署・業務のどの紙を」対象とするか明確になります。優先順位の決め方としては、利用頻度が高い書類、保管に場所を取っている書類、法改正により電子化が可能になった帳簿類などから始めるのが効果的です。

2022年1月から改正電子帳簿保存法では、電子保存のための事前承認の制度が廃止になり、適正事務処理要件などが緩和されているため、これらの帳簿・書類からペーパーレス化を進めるのも良いでしょう。

ステップ2 ツールの選定と導入

導入範囲が決まったら、目的と対象に適したツールやシステムを選定します。ツール選定では、ペーパーレス化の目的・方法・対象に適したものを選ぶことが大前提です。

ツール選定時には、操作性・コスト・セキュリティ・既存システムとの連携性を総合的に評価しましょう。特に中小企業では、初期費用を抑えられるクラウド型のサービスが導入しやすく、スモールスタートが可能です。

ツール選定の際に確認すべき主なポイントは以下の通りです。

確認項目 チェックポイント
操作性 ITリテラシーが高くない社員でも直感的に使えるか
コスト 初期費用と月額費用、将来的な拡張コストは予算内か
セキュリティ 暗号化、アクセス制限、バックアップ機能は十分か
連携性 現在使用している会計ソフトや基幹システムと連携できるか
サポート体制 導入時の支援や運用後の問い合わせ対応は充実しているか
法令対応 電子帳簿保存法やe-文書法の要件を満たしているか

ペーパーレス化を進める場合、電子データでの保存を行うための要件が電子帳簿保存法によってそれぞれ定められており、その要件を満たすための運用ルールや業務フロー・体制構築が必要です。ツール選定の段階で、法令要件への対応可否をしっかり確認しておきましょう。

ステップ3 社員教育と運用ルール作成

ツールを導入しても、社員が使いこなせなければペーパーレス化は成功しません。ペーパーレス化を本格的運用する前にはルールを決めておくことも大切で、事前に業務フローや社内運用ルールを策定しなければ、現場の混乱を招きます。

社員教育では、ペーパーレス化の目的とメリットを丁寧に伝え、操作方法だけでなく新しい業務フローへの理解を深めることが重要です。「電子データでは業務が回らなくなる」「ITツールが使いこなせない」という不安を取り除くことから始めることで、社員の協力を得やすくなります。

社員教育と運用ルール作成で押さえるべきポイントは以下の通りです。

項目 具体的な内容
目的の共有 なぜペーパーレス化が必要なのか、どのようなメリットがあるかを全社員に周知
操作研修 ツールの基本操作、データの保存方法、検索方法などを実際に体験しながら習得
段階的教育 部署ごとや役職ごとに必要なレベルに応じた研修を実施
マニュアル整備 操作手順書やFAQを作成し、いつでも参照できる環境を整える
運用ルール策定 ファイル命名規則、保存場所の統一、アクセス権限の設定基準などを明確化
問い合わせ窓口 導入初期の質問や困りごとに対応できる社内担当者を配置

ペーパーレス化は会社一丸となって取り組むべき改革で、明確なルールのもとで社員の意識と足並を揃えることが重要です。運用ルールには、文書の保存期間、削除基準、セキュリティ対策の具体的な手順なども盛り込みましょう。

ステップ4 段階的な実施と改善

ペーパーレス化は段階的に進める必要があり、デジタル化の必要性を企業全体で認識・理解することが重要で、段階的に進めていくことがポイントです。一度にすべての業務をペーパーレス化しようとすると、現場に混乱が生じ、かえって業務効率が低下する恐れがあります。

まずは小規模な部署や限定的な業務からスタートし、効果を確認しながら徐々に展開範囲を広げていく段階的アプローチが成功の鍵です。導入初期はテスト運用期間を設け、実際の業務で発生する問題点や改善点を洗い出しましょう。

段階的な実施における具体的な進め方は以下の通りです。

フェーズ 期間目安 実施内容
試験導入 1〜2ヶ月 特定部署や限定的な業務でテスト運用を実施し、課題を抽出
改善・調整 2週間〜1ヶ月 試験導入で見つかった問題点を修正し、運用ルールを最適化
段階的展開 3〜6ヶ月 他部署や関連業務へ順次展開し、全社的な導入を推進
定着化 継続的 定期的な効果測定と改善活動を実施し、新たな課題に対応

計画立てには、KPIの設定、現在回付中の紙媒体の移行可否、ペーパーレス化推進体制構築、プロジェクト開始時期、効果測定の時期やチェックポイントの設定の項目が必要です。具体的なKPIとしては、紙の使用量削減率、印刷コスト削減額、書類検索時間の短縮、承認プロセスのスピードアップなどが挙げられます。

効果測定では、導入前と導入後のデータを比較し、定量的に成果を評価します。目標に対する達成度を確認するとともに、現場の声を集めて使い勝手や業務フローの改善点を継続的に見直していきましょう。改善サイクルを回すことで、ペーパーレス化が単なる電子化ではなく、真の業務改革として定着していきます。

ペーパーレス化の成功事例

ペーパーレス化の成功事例

ペーパーレス化を検討している企業にとって、実際に導入した企業の成功事例は最も参考になる情報です。ここでは、業種ごとに具体的な課題と解決策、そして得られた効果を詳しくご紹介します。実際の取り組みから学ぶことで、自社のペーパーレス化推進のヒントが得られるでしょう。

製造業での成功事例

受注処理業務のペーパーレス化による大幅な業務効率化

ある製造業の企業では、取引先からファクスで送られてくる注文書を日次で大量に処理する必要があり、人手不足や残業時間の増加が深刻な課題となっていました。特に受注処理業務では紙の注文書をシステムに手入力する作業に多くの時間を要し、入力ミスも頻繁に発生していました

この課題を解決するため、同社は文書管理ツールとAI OCR機能を備えたシステムを導入しました。これにより、紙に慣れ親しんだ担当者でも安心して電子上で業務を行える環境を実現し、注文書の情報を自動的に業務システムに入力できるようになりました。

その結果、注文処理速度が向上し、データ入力の不備が大幅に減少しました。残業時間の削減にも成功し、人手不足の問題解消にも貢献しています。また、過去の注文履歴もデジタル化されたことで、検索性が向上し、顧客対応のスピードアップにもつながりました。

現場作業のペーパーレス化による業務負担軽減

高速道路の修繕を行う企業では、会議資料のペーパーレス化は実施していたものの、現場作業員が使用する作業手順書や図面は依然として紙のままでした。現場では図面を持ち運んだり、必要に応じてコピーを取ったりする作業が負担となっていました。

同社はシステム刷新を機に、タブレット端末を活用した完全なペーパーレス化を推進しました。特に役員を含む全員にタブレット会議を必須とすることで、組織全体での活用を促進しました。

導入後は、作業手順書や図面の紙の持ち運びやコピーが不要になり、現場作業員からも好評を得ています。情報の更新もリアルタイムで反映されるため、常に最新の情報を現場で確認できるようになり、作業の正確性も向上しました。

大量の紙文書削減とオフィス移転への対応

大手システムインテグレーターでは、ハイブリッドワークの実現とオフィス移転を機に、本格的なペーパーレス化に取り組みました。それまでの取り組みでも効果は出ていたものの、依然として5,000万枚もの紙が存在し、移転先のオフィスでは保管スペースが限られていたため、抜本的な対策が必要でした。

同社はオフィス移転までの限られた期間で大量の紙を処理するため、5,000万枚の紙を要不要や使用頻度、緊急性によって仕分けしました。その結果、75%にあたる約3,750万枚を廃棄または倉庫へ移動させることに成功しました。電子化についてはアウトソーシングを活用し、AIやロボティクスも併用することで、短期間での実現を可能にしました。

取り組み内容 導入ツール・手法 主な効果
受注処理業務の電子化 AI OCR、文書管理ツール 注文処理速度向上、入力ミス減少、残業時間削減
現場作業のデジタル化 タブレット端末、ペーパーレス会議システム 紙の持ち運び不要、情報のリアルタイム更新
大量文書の整理・電子化 AI、ロボティクス、アウトソーシング 75%の紙削減、オフィススペース有効活用

サービス業での成功事例

契約書の電子化によるテレワーク対応

クラウドシステムを提供する企業では、取引先のテレワーク導入により「契約書に捺印できない」という事態が発生し、これがペーパーレス化を進める大きなきっかけとなりました。また、事務担当者が契約書の確認作業や修正依頼に多くの時間を費やしていることも課題でした。

同社は電子契約サービスを導入し、まず新規契約書類から電子化を開始しました。システムが軌道に乗った段階で既存顧客との継続契約書類の電子化も進め、段階的なアプローチで成功しました。

この取り組みにより、契約書に関わる事務作業の工数の軽減を実現し、テレワーク環境下でもスムーズに契約業務を進められるようになりました。契約締結までのリードタイムも短縮され、顧客満足度の向上にもつながっています。

グループウェア導入による社内決裁のデジタル化

A社では、社内決裁を紙の回覧で行っており、決裁のたびに何枚もの紙を印刷していました。印刷コストだけでなく、回覧のための時間や手間も大きな負担となっていました。また、社長のスケジュールを確認するには直接本人に聞く必要があり、非効率な状況が続いていました。

この課題を解決するため、グループウェアを導入し、システム上で決裁回覧やカレンダー共有を行えるようにしました。導入後は、決裁に使用していた紙や紙のカレンダーが不要になり、印刷や予定確認の手間も削減されました。

特にカレンダー共有機能により、会議設定や予定調整がスムーズになり、業務効率が大幅に向上しました。システム上で承認状況もリアルタイムで確認できるため、決裁の遅延も減少しています。

文書管理のデジタル化による保管スペース問題の解決

B社では、大量の紙文書の蓄積により保管スペースがひっ迫していることが大きな課題でした。また、組織間の情報伝達ルールが定まっておらず、ファクスのやり取りが多く、紙の文書は増える一方でした。

全社的なペーパーレス化を推進するにあたり、文書管理システムとクラウドストレージを活用しました。保管倉庫内の紙文書を電子文書に移行し、情報伝達も含めて電子化することに成功しました。

その結果、ファイルキャビネット約56台分もの書類を削減することができました。保存ルールや破棄の基準を策定した上で計画的に実践したことが、無駄のない削減の大きなポイントとなりました。電子化により文書の検索性も向上し、必要な情報をすぐに見つけられるようになりました。

請求書処理業務の標準化による組織間連携の向上

C社では、経理部に対して各組織から紙の請求書がさまざまな方法で届いていたため、受付確認が非常に煩雑な状況となっていました。受付方法がバラバラであることで、処理の遅延やミスも発生していました。

同社は受付方法の標準化とデジタル化を検討し、オンライン文書管理サービスを導入しました。請求書の受付ルールを統一し、電子データでの提出を基本とすることで、組織間の連携速度や連携品質の向上に成功しました。

経理部門の業務負担が軽減されただけでなく、各部門も請求書の提出状況をリアルタイムで確認できるようになり、支払いプロセス全体の透明性が高まりました。

業種 主な課題 導入ソリューション 成果
人材サービス業 テレワーク時の契約書捺印、事務作業の非効率 電子契約サービス 事務作業工数削減、契約締結の迅速化
一般企業 決裁回覧の手間、予定確認の非効率 グループウェア 印刷コスト削減、業務効率化
サービス業 保管スペース不足、ファクス依存 文書管理システム、クラウドストレージ 56台分のキャビネット削減、検索性向上
一般企業 請求書受付の煩雑さ、処理の遅延 オンライン文書管理サービス 組織間連携の向上、処理速度改善

これらの成功事例から、ペーパーレス化は業種を問わず効果を発揮することがわかります。重要なのは、自社の課題を正確に把握し、適切なツールを選定し、段階的に進めることです。また、従業員の理解と協力を得ながら進めることも、成功の鍵となっています。

ペーパーレス化でよくある失敗と対策

ペーパーレス化でよくある失敗と対策

ペーパーレス化は多くの企業が取り組んでいるものの、思うように進まず失敗に終わるケースも少なくありません。ここでは実際によくある失敗パターンと、それを防ぐための具体的な対策を解説します。

社員の抵抗感への対処法

社員が抵抗感を持つ主な理由

ペーパーレス化を導入しても、現場の社員が協力せず紙の使用を続けてしまうという失敗は非常に多く見られます。せっかく電子化した書類を印刷して使ってしまったり、デジタルツールを避けて従来の紙ベースの業務を続けてしまったりすることで、ペーパーレス化の効果が得られません。

この問題が起こる背景には、いくつかの明確な理由があります。まず、パソコンやタブレットに不慣れな方は、たとえデータ化して会議資料を配布しても「紙で見たい」と思うことが多く、ITリテラシーの差が大きな壁となります。特に長年紙の書類で業務を行ってきたベテラン社員ほど、デジタル機器での閲覧に違和感を覚えやすい傾向があります。

また、ペーパーレス化の目的や重要性を現場が理解できていないことも大きな要因です。単に「電子化する」という指示だけが下りてきて、なぜそれが必要なのか、どのようなメリットがあるのかが共有されていない場合、社員は積極的に取り組む理由を見出せません。

さらに、業務のオペレーションが大きく変わることへの不安や抵抗も無視できません。慣れ親しんだ業務フローが変更されることで、一時的に作業効率が下がることを懸念し、変化そのものに消極的になる社員も出てきます。

社員の理解を得るための具体的な方法

社員の抵抗感を解消するには、まずペーパーレス化の目的とメリットを丁寧に説明し、全社で理解を共有することが最も重要です。単なるトップダウンの指示ではなく、コスト削減効果や業務効率化の具体的な数値、環境への貢献など、社員一人ひとりにとってのメリットを明確に示すことで、協力を得やすくなります。

導入時には、段階的なアプローチも効果的です。いきなりすべての業務をペーパーレス化するのではなく、まずは会議資料や社内報告書など、比較的影響の小さい部分から始めることで、社員が徐々に慣れていく時間を確保できます。

ITリテラシーの差に対しては、十分な教育とサポート体制の整備が必要です。デジタルツールの使い方を学ぶ研修を実施し、質問や相談ができる窓口を設けることで、不慣れな社員も安心して新しいシステムを使えるようになります。マニュアルの整備や、操作に慣れた社員によるサポート役の配置も有効です。

電子化した資料の印刷を防ぐ工夫

電子化した資料を社員が印刷してしまう問題には、技術的な対策と意識改革の両面からアプローチする必要があります。

まず、電子資料がデバイス上で見やすいように設計することが重要です。紙を前提としたレイアウトでは、タブレットやモニターでは文字が小さすぎたり、見づらかったりすることがあります。デジタル閲覧に最適化されたフォーマットに作り直すことで、印刷の必要性を減らせます。

また、ペーパーレス化の目的が印刷コスト削減であることを社員が理解していれば、自然と印刷を避ける意識が芽生えます。定期的に印刷量の推移を共有し、削減目標に対する進捗を可視化することも効果的です。

セキュリティ対策の不備

ペーパーレス化で生じるセキュリティリスク

ペーパーレス化を進める際、セキュリティ面での不安から導入を躊躇する企業も少なくありません。サイバー攻撃などによるセキュリティリスクを懸念してペーパーレスが進まない失敗例は実際に多く報告されています。

電子データはインターネットを介してやり取りされるため、外部からの不正アクセスや、社員による誤操作・故意の情報持ち出しなど、紙とは異なるリスクが存在します。情報漏えいが発生すれば、顧客や取引先からの信用を失い、企業の存続にも関わる重大な問題となります。

しかし、紙の書類も盗難や紛失のリスクがあり、パスワードなどの保護もないため、第三者に簡単に見られてしまう危険性があります。電子化だけが危険というわけではなく、適切な対策を講じれば、むしろ紙よりも安全に情報を管理できます。

導入すべきセキュリティ対策

ペーパーレス化を安全に進めるには、包括的なセキュリティ対策が不可欠です。

対策項目 具体的な施策 期待される効果
アクセス制御 ユーザーごとに閲覧・編集権限を設定、多要素認証の導入 不正アクセスの防止、内部からの情報漏えい防止
データ暗号化 保存データと通信データの暗号化 データ盗難時の情報保護
バックアップ体制 定期的な自動バックアップ、複数拠点での保管 データ消失のリスク軽減
操作ログの記録 誰がいつどのデータにアクセスしたかを記録 不正操作の抑止と早期発見
セキュリティ教育 社員向けの定期的な研修実施 人的ミスによる情報漏えいの防止

特に重要なのは、技術的な対策だけでなく、社員へのセキュリティ教育を徹底することです。どんなに強固なシステムを導入しても、パスワードを適切に管理しなかったり、不審なメールを開いてしまったりすれば、セキュリティは簡単に破られてしまいます。

クラウドサービスを利用する場合は、信頼できるベンダーを選び、ISO27001などのセキュリティ認証を取得しているか、データの保管場所や障害時の対応体制はどうなっているかを確認しましょう。

運用ルールの整備

セキュリティ対策と合わせて、明確な運用ルールを策定することも重要です。ファイルの命名規則、保存場所の統一、アクセス権限の付与基準、データの保管期限など、具体的なルールを決めて社内で共有します。

また、セキュリティインシデントが発生した場合の報告体制や対応手順も事前に定めておくことで、万が一の際にも迅速に対処できます。

導入コストの見積もりミス

見落としがちなコスト項目

ペーパーレス化の導入に際して、コストの見積もりを誤り、予算オーバーで計画が頓挫してしまう失敗も多く見られます。初期費用だけに目を向けて、ランニングコストや人件費などの隠れたコストを見落としてしまうことが主な原因です。

具体的には、以下のようなコストが発生します。

コストの種類 主な内訳
初期導入コスト タブレットやパソコンなどのデバイス購入費、スキャナーなどの機材費、システムやソフトウェアのライセンス費用、初期設定費用
ランニングコスト クラウドサービスの月額利用料、ストレージの容量追加費用、セキュリティ対策ソフトの更新費用、システムの保守・サポート費用
人件費 既存書類のスキャン作業にかかる時間、社員教育・研修の実施費用、システム管理者の配置または育成費用
移行期のコスト 紙と電子の併用期間における二重管理のコスト、業務効率の一時的な低下による損失

電子化作業に必要なスキャナといった機材の購入コストだけでなく、実際のスキャン作業、電子化したデータの保存作業といった時間的コストも考慮しなければ、現実的な計画は立てられません。

費用対効果を正確に算出する方法

導入コストの見積もりミスを防ぐには、導入前にペーパーレス化によって削減できるコストを具体的に数値化し、投資回収の期間を明確にすることが重要です。

削減できる費用としては、印刷費用(用紙代、インク代、プリンターのリース料や保守費用)、郵送費、書類保管スペースの賃料、書類管理にかかる人件費、廃棄処理費用などが挙げられます。これらを月単位・年単位で計算し、導入コストと比較することで、何年で投資を回収できるかが見えてきます。

例えば「印刷費用を月20万円削減できる」「書類検索の時間が月50時間短縮され、人件費換算で月15万円の削減」といった具体的な数値目標を設定することで、経営層の承認も得やすくなります。

段階的な導入でリスクを軽減

コスト面でのリスクを抑えるには、一度にすべての業務をペーパーレス化するのではなく、小規模な範囲から始めて徐々に拡大していく段階的なアプローチが有効です。

まずは特定の部署や業務に限定して導入し、効果を検証してから全社展開することで、予期せぬ問題が発生しても影響を最小限に抑えられます。また、最初は無料または低コストのツールから始め、運用が軌道に乗ってから有料の高機能なシステムに移行するという方法も、初期投資を抑える有効な手段です。

導入効果が期待より低いと判断した場合は、やり方を見直したり、別のツールを検討したりと、柔軟に方向転換できる余地を残しておくことも大切です。

隠れた失敗要因:体制変更の不足

コストとは直接関係しませんが、ペーパーレス化を進めるための体制変更ができていないことも、導入失敗の大きな要因となります。明確なリーダーを立てず、数値目標やスケジュールも曖昧なまま導入を進めてしまうと、現場は混乱し、結局元の紙ベースの業務に戻ってしまいます。

ペーパーレス化の推進責任者を明確にし、定期的に進捗をチェックする体制を整えることで、計画倒れを防ぐことができます。1ヶ月、3ヶ月、半年といった期間ごとに中間目標を設定し、達成状況を確認しながら進めていくことが、成功への近道です。

よくある質問(FAQ)

ペーパーレス化にはどのくらいの費用がかかりますか?

ペーパーレス化の費用は導入規模やツールによって大きく異なります。小規模であれば月額数千円から始められるクラウドサービスもあり、初期費用を抑えた導入も可能です。一般的な中小企業では、ツール導入費用として月額1万円~5万円程度、初期設定やスキャン作業で10万円~30万円程度を見込むとよいでしょう。ただし、印刷コストや保管スペースの削減により、多くの企業では1~2年で投資回収できるケースが多いです。

ペーパーレス化は法律的に問題ありませんか?

電子帳簿保存法の改正により、請求書や契約書などの重要書類も適切な要件を満たせば電子保存が認められています。2022年の法改正では事前承認制度が廃止され、より導入しやすくなりました。ただし、タイムスタンプの付与や検索機能の確保など、一定の要件を満たす必要があります。電子署名法により電子契約も法的効力を持つため、適切なツールを使用すれば法律面での心配はありません。

社員が高齢でITに不慣れな場合でもペーパーレス化できますか?

ITに不慣れな社員がいる場合でも、段階的な導入と丁寧な教育により十分にペーパーレス化は可能です。まずは操作が簡単なツールを選び、会議資料のデジタル化など影響範囲の小さい部分から始めることが重要です。マニュアル作成や個別サポート体制を整え、成功体験を積み重ねることで抵抗感は軽減されます。一部の業務で紙を併用する移行期間を設けるなど、柔軟な対応も効果的です。

取引先が紙の請求書を求めてくる場合はどうすればいいですか?

取引先が紙を希望する場合は、社内業務はデジタル化しつつ、必要に応じて印刷・郵送するという併用方式が現実的です。徐々に電子請求書の利便性を説明し、理解を求めていくことも大切です。多くの企業でペーパーレス化が進んでいる現状を伝え、PDFでの送付を提案するなど、段階的に移行を促すとよいでしょう。完全なペーパーレス化を急がず、できる範囲から進めることが成功の秘訣です。

既存の紙文書はすべてスキャンする必要がありますか?

すべての紙文書をスキャンする必要はありません。まずは使用頻度の高い文書や法的保存期間が長い重要書類から優先的にデジタル化することをおすすめします。古い資料で参照頻度が低いものは、保存期間を確認した上で廃棄や現状維持も選択肢です。完璧を目指すと作業量が膨大になるため、費用対効果を考えて優先順位をつけることが重要です。

ペーパーレス化するとセキュリティは大丈夫ですか?

適切な対策を取れば、ペーパーレス化は紙よりもセキュリティを高められます。クラウドサービスは暗号化や多段階認証、アクセス権限設定など高度なセキュリティ機能を備えています。紙文書の紛失や盗難リスクに比べ、デジタルデータは閲覧履歴の追跡やバックアップが容易です。ただし、パスワード管理の徹底や定期的なセキュリティ教育など、運用面での対策も合わせて実施することが必要です。

ペーパーレス化はどのくらいの期間で完了しますか?

ペーパーレス化の完了期間は企業規模や導入範囲によって異なりますが、中小企業では一般的に3ヶ月~1年程度が目安です。請求書のデジタル化など部分的な導入なら1~2ヶ月で効果を実感できます。全社的な導入では、ツール選定に1ヶ月、導入・教育に2ヶ月、運用定着に3~6ヶ月程度を見込むとよいでしょう。焦らず段階的に進めることで、社員の負担を減らしながら確実に定着させることができます。

まとめ

ペーパーレス化は、中小企業にとってコスト削減や業務効率化、テレワーク対応など多くのメリットをもたらす重要な取り組みです。紙文書の印刷コストや保管スペースが削減できるだけでなく、情報共有のスピードアップやセキュリティ強化にもつながります。

本記事でご紹介したように、ペーパーレス化は決して大企業だけのものではありません。請求書や見積書の電子化、契約書の電子署名導入、会議資料のデジタル化など、小さな範囲から始められる具体的な方法が数多く存在します。重要なのは、いきなりすべてを変えようとせず、自社の状況に合わせて段階的に進めることです。

導入にあたっては、現状把握と目標設定を行い、社員の理解と協力を得ることが成功の鍵となります。ツール選定では、操作性やコスト、サポート体制を総合的に判断し、自社に最適なものを選びましょう。

ペーパーレス化を効率的に進めるためには、適切なツールの活用が不可欠です。AppRemoは中小企業の業務効率化を支援するワークフローシステムとして、稟議書や申請書などの社内文書をペーパーレス化し、承認プロセスを大幅に効率化できます。直感的な操作性で社員の負担も少なく、段階的な導入にも対応しています。

ペーパーレス化の具体的な進め方やAppRemoの詳しい機能については、「AppRemo製品ガイド」をぜひダウンロードしてご確認ください。導入事例や活用方法など、実践的な情報が詰まっています。

デジタル化の波は今後さらに加速していきます。競争力を維持し、働きやすい職場環境を実現するためにも、今こそペーパーレス化に取り組む絶好のタイミングです。できるところから一歩ずつ、確実に進めていきましょう。


この記事の執筆・監修者
齋藤 晶
齋藤 晶
株式会社システムエグゼ 営業部 業務改善コンサルタント 新卒でSMB領域を中心とした、WEBコンサルティング会社(東証グロース市場)に入社。様々な業種の企業への課題解決に貢献し、セールス部門年間MVPを獲得。その後SaaS企業を経て、2022年システムエグゼに入社。ワークフローシステムAppRemoのエバンジェリストとして、 サービスの認知活動を中心に、セミナー等で業務改善のノウハウ発信を行っている。
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